深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

「うわ！　あれ見ろよ、すげぇ！」
「映画みたいね……」
　圧倒的存在感。寝子島スタジアムには、七つの海を征服する海賊団が降り立っていた。総勢十二名、高校生から三十代まで年齢も幅広い。グループ仮装の規模では最大を誇る仮装集団の迫力に釘付けになる観衆たち。会場を映すカメラも彼らをアップにして、その魅力を余さず届けようとしていた。
　いつもはしとやかな雰囲気を漂わせている秋ノ宮こまちは、胸元もあらわに色気を放つ女海賊の扮装で、大胆なイメージチェンジを図っている。狙った者を確実に撃ち抜く二挺拳銃、目深にかぶったパイレーツハットの下からのぞくまなざしはいつになく鋭い。銃やロングコート、ブーツといったハードなアイテムを、袖口やスカートのフリル、ベアトップの胸元と髪を飾るリボンが中和し、絶妙なバランスを作り上げている。

　こまちは一緒に走るシグレ・ナイトウォーカー、日暮ねむると並んで立っていた。どうやら海賊団は徒党を組まず、スタート後はそれぞれのスタイルで走ることになるようだ。
　三人組のリーダーは俺だと言わんばかりの存在感を放つシグレは、壮麗な装飾の施された海賊衣装に身を包んでいた。つばを巻き上げて留めた三角帽、高い襟のオーバーコートは夜の海のような濃紺で、エポーレットと同じ色の金の刺繍が輝いていた。襟元を飾るジャボは白波のような曲線を描き、中央には美しい宝石のついたタイ留めが光っている。海賊でありながら、どこか貴族のような気高さを感じさせるコーディネイトだった。

　セクシーなこまち、ノーブルなシグレの衣装に対して、ねむるの仮装はコミカル＆ホラーを感じさせる。『海賊船長・寝不足のネム』になりきるねむるは、シンプルなブルーブラックのコートに白いシャツ、赤いサッシュの海賊ルック。腰のホルダーには銃を挿している。一見平凡な衣装だが、首から上がただの海賊とは違う。ねむるは顔の半分がドクロに見える、特殊なマスクを身につけていた。まるで海賊船というよりは、幽霊船の船長でもあるように……。いつも眠そうな半目が、仮装と合わさるとどこを見ているかわからないような得体の知れなさを感じさせる。子供たちがこれを見て怖がらないのは、胸のドクロバッヂや、掲げた海賊旗の可愛らしさが大きいだろう。きょとんと虚ろな目の開いたドクロマークは、羊のもこもこをまとっており、なんとも愛嬌があるのだった。

　まったくタイプの違う三人が同盟を組むことになったのは、ねむるの提案がきっかけだった。
「私たちはレースが済むまで運命共同体。いいわね？」
「ああ、わかっているさ」
女海賊らしい振る舞いを崩さぬこまちに、シグレは不敵な笑みとともにうなずく。
「体力には自信なかったんだよね。クエストと仮装で点を取っていこう。カップのクエストは自信があるんだ。任せてよ！」
ねむるは何か秘策があるらしい。仲間に自信ありげに語っていた。