深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　寝子島高校二年、体育科の元気少年、宇佐見望月のテンションはスタート前から最高潮に達していた。
「コスプレ！　すっげー！　ニャンダムのキャラになれるなんて俺・様☆感・動！」
今日の彼は少年たちの心の金字塔となるロボットアニメ、『希望戦士ニャンダム』のキャラクターになりきっている。未来世紀を感じさせるスーツに身を包んだ彼は今、『漆黒の三兄弟』の熱血次男・ウーサなのだ。
　『漆黒の三兄弟』を完全再現するために、もちろん長男と三男も参戦している。
「いやぁよかった！　気合いを入れて用意したかいがあったよ」
誇り高き公国軍人にして三兄弟の長男・ブロドに扮した志波武道が言う。タイトなパイロットスーツが水泳で鍛え上げられた体に実によくマッチしていた。

「そういえば拓郎ちゃんのコスプレも凝ってたなー。『邪気こら』だよな、あれ？」
「だろ？　あれも俺が用意したんだ」
「ちょっ!?　ブドーちゃんが!?　縫ったの!?　武道ちゃん自分で縫ったのッ!?」
無邪気に喜んでいた望月の顔色が変わる。これだけのクォリティの作品を三人分、体育科の男子生徒が手作りしたのだとあれば無理もない。てっきり既製品だと思っていたのだから。
「走りは問題なさそうだな。邪魔にならない仮装でよかったぜ」
三男・キリーの衣装を着た桐野正也は、少々照れくさそうにしている。時代を象徴するアニメとも言われる『ニャンダム』の、美形三兄弟が現実世界に降臨している瞬間だ。アニメファンでなくてもその名は記憶にあるほどの知名度を誇る作品ゆえに、「ひょっとしてあれは」と注目する者が多いのだ。黙って立っていても目で追われ、武道や望月のそばに行けば「三兄弟が揃ってる！」と注目されてしまう。居心地の悪さをなんとかしようと、正也は志波拓郎に声をかけた。
「よう、志波弟。彩葉ちゃんも一緒か」
「あ……先輩。と、兄貴……」
拓郎は知る人ぞ知る少女漫画『邪気眼を凝らせば……』の仮装をしている。今日は同じく同作品のヒロインの仮装をした高梨彩葉と一緒に走るのだ。

「よく似合ってるな。今日はがんばれよ」
「ありがとうございます！」
答える彩葉は、今日は長く伸ばした前髪を横に分け、『邪気こら』ヒロインのサイドテールにしている。普段隠されている青い瞳がはっきり見えると、まるで別人のようだった。その魅力に静かに胸を高鳴らせている人物がすぐ隣にいることを、彩葉は知らない。