深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　不思議な不思議な、夜の妖精。赤いとんがり帽子をかぶった、カボチャ頭がとっとこ走る。言うなればハロウィンとクリスマスのエッセンスをごちゃまぜにして具現化させたような、妙なキャラクターだった。胸元のボリュームを見るに、正体は女性であるようだ。この謎キャラクター、通称『ジャック・ド・サンタさん』は、時折寝子島で行われるイベントに現れることもあった、と言う。その時々で若干雰囲気が変わるらしいのだが、仮装マラソン中の『ジャック・ド・サンタさん』は、コワくてちょっとおもしろいキャラクターを演じているようだった。

「スイーツ＆トリートォ！」
キンキンと高い声で叫びながら走り、子供たちに向けてお菓子をばらまいていく。大喜びでコースに飛び出し、慌てて母親に引き戻される子もいた。本日子供たちのアイドル、不思議の妖精に扮しているのは旅鴉月詠であった。月詠＝ジャック・ド・サンタさんは第1クエスト会場に到達すると、ランナーたちに混じってカップ当てに挑戦する。
「ソレカナ？」
指差した先のカップには、見事ミニサンマさんが入っている。高い声でククッと笑うと、ジャック・ド・サンタさんは係員に告げた。
「マラソンはココでオシマイ！　十点ヨロシク！」
なんとジャック・ド・サンタさん、ここでリタイヤ宣言である。元来た道を、とことこと戻り始めた。これもすべてプラン通りである。不思議そうな顔で見送るスタッフに、ジャック・ド・サンタさんはくるりと振り向いた。
「そこのコ。指差す代わりに頭でやってるカラ。開けてあげテ？」
ジャック・ド・サンタさんが指差す先には、いったいどうやってここまで無事にたどり着いたのか、ねむねむ白拍子の上穗木千鶴がいた。三つのカップの前で寝落ちし、頭がぐらぐらと動いて真ん中のカップをつぶしそうになる。

「あ、えっと……真ん中、かな？」
スタッフが問うと、うまい具合に千鶴はもう一度船を漕いで頭をがくりと垂れた。うなずきと勘違いしたスタッフは真ん中のカップを開ける。
「あ、はい。正解！十点です。マラソンの続きをどうぞ」
「あぁ……あったよ」
「はい、サンマさんが入っていましたから正解です。マラソンを再開していいですよ？」
「まらそっ……（ガッ）」
千鶴はなんとか立ち上がる、その拍子に膝をテーブルに打ち付けた。ガッという音と衝撃で、僅かな間だけ千鶴は覚醒する。
「ん……痛い……あいた……」
とりあえず人が流れる方へついていく。危なっかしい足取りで、千鶴はレースを再開した。

「お帰りなさいませ」

檜扇唱華がジャック・ド・サンタさんを笑顔で迎える。ここからは二人で『マジカルハロウィーン』の運営だ。ジャック・ド・サンタさんはうなずき返す。表情はまるでわからないが、やる気なのは間違いなかった。唱華は小さなカートを季節はずれのハロウィン妖精に指し示す。ジャック・ド・サンタさんはそれを受け取り、陽気な声で会場を歩みだした。
「ウェルカームボーイズ＆ガールズ！甘いモノは如何カナー？」
「いらっしゃいませ！　季節はずれのハロウィン屋台でおいしいお菓子をどうぞ！」