深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　仮装ランナーたちの視界にスタジアム出口が見えてきた、その時。人々は、ランナーの先に一人の女性が立っているのに気がついた。長い黒髪を二つに束ね、風になびくコートを一枚身につけ……その下は、衣服らしいものが、何も見えない。

　全裸だ。これは全裸に果てしなく近い。その女性、いや実際は少女だ――忍足春は、『変質者の仮装』という、超イレギュラーな扮装でその場に立っていたのである。
「おいあんた！　そこにいたらランナーの邪魔だから……ってええぁ!?」
ランナーの進路をふさぐ春に叫ぶ係員の目が飛び出しそうになる。薄いコートが宙を舞う。己を戒めるたった一枚の衣服を脱ぎ捨てた春は、裸体にブーツという実に変態チックな姿になってその場にいたすべての人間の度肝を抜いた。女性からは悲鳴が、男性からは歓喜の叫びや雄たけびが、そして運営スタッフからは怒号が上がる。
「キャー！　変態、変態ー！」
「うおおお！　美女が、全裸がー！」
「失格！　失格です！　誰か警察を呼んでー！」
「捕まえろ！」
目的を果たした春は、きびすを返して走り去る。全裸の彼女が、ランナーたちの先頭を切る形になった。運営スタッフと、早くも駆けつけた自転車の巡査が追いすがる。ランナーたちとは逆方向に曲がり、追跡を振り切ろうとした。熱気高まる夜の空気を素肌で感じながら、春はすばらしい俊足で駆ける。途中何人かの島民が、春を見かけてぎょっとした表情をした。これからスタジアムに向かおうと言う人々だろうか、巨大ディスプレイでランナーを応援するつもりがまさかストリーキングを目にするとは思いもしなかったことだろう。心の準備のないまま全裸を目に焼き付けてしまった男性ランナーの中には、興奮が限界突破して倒れる者も現れた。
「ああ……みんなに見られて……ハァハァ」
春は恍惚の表情を浮かべながら一人激走していた。
「私は、最高に、興奮……して、いますぅ……ああっ、『硬くなれ』……！」
そう念じると、春の白い裸体は瞬時に硬化する。『毛皮を脱いだヴィーナス』のろっこん効果は、春を捉えようとした警官の手を跳ね除けた。バランスを崩した自転車の、がしゃんと倒れる音がする。
「私……ハァハァ……変態なんです……。見られて喜ぶ、そ、そんな気持ち悪い女なんですぅ！」
過激な独白と、スタイル抜群の美女ストリーカーが現れ、レース開始早々大量のリタイア者を出したという噂を残して、春は夜の闇に消えて行った。