深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

「走るのなんてめんどくさいわ」
　そう言っていたはずの古館苺花、彼女もなぜか仮装マラソンのランナーとしてコースを駆けていた。それと言うのも、こんなできごとがあったからである。

　そもそも苺花は、かわいい子（男女隔てなく）を応援するために会場にやって来た。

「ふふん。苺花の完璧なプロポーションと可愛さをアピールしつつ、応援にももってこいの衣装はこれしかないでしょ！」
今宵の苺花はレースクイーン。丈の短いトップスと、きわどいカットのタイトミニは、ブルーとイエローの鮮やかな配色だ。光沢素材がセクシーさを強調している。大人っぽく大胆な衣装を、パラソルにつけられた苺のチャームや、サイドテールを飾る羽のヘアアクセサリのかわいらしさが中和していた。
「ほーらほら！　苺花が応援してあげるんだから、がんばんなさいよー！」
　苺花は仮装姿でかわいい少年少女――この場合、苺花より年齢が上か下かなどは問題ではない――が、かわいい衣装で精一杯走る。見るだけでも楽しいと言うのに、それを応援している自分自身も、今、とてもかわいいという現実が何よりも楽しい。誰にも真似できない衣装で、最高に可愛く装っているのだから当然だ。
「かわいい子を応援する苺花がかわいい！　ああもう、かわいいって言葉がゲシュタルト崩壊しそうな素敵な夜だわ！」
「あーだめだめ。ここじゃ応援の人の邪魔になりますからね。ランナーはトラックに入ってください」
エキサイトする苺花を、係員は問答無用でトラックへと引きずっていく。つい先ほど、ピストルの音が鳴り響き、ランナーたちが一斉に会場を出たところだった。
「えっ？　ちょっと、苺花は走る気なんて……」
「はい、今ならまだ間に合いますからね！　はいスタートスタート！　走って！」
「ちょっと！　なんなのよもう……」
準備に大わらわの係員は苺花の抗議など耳に入っていない。出遅れたランナーの誘導のため、足早に去って行ってしまった。ばかばかしい、と場を去ろうとしたが、背後からはどっと声援が投げかけられる。
「もう！　走ればいいんでしょ、走れば!!」
苺花はあきらめてランナーとして参加することにした。出遅れているのはしゃくだが仕方ない。だが、苺花はスタジアムの出口で多くのランナーたちの足が止まっているのに気づいた。
「キャー！　変態が出たー！」
「露出魔が出口をふさいでるぞ！」
どうやらさっそく妙なハプニングがあったらしい。そのうちサイレンまで鳴り始めた。たたらを踏むランナーたちを尻目に、苺花は臆せずランナー集団に紛れ込む。

　スタートから間もない距離ではあるが、謡と丑都渡紗姫はかなり後ろの方にいた。夜中のイベントを楽しむのが第一の目的である二人には、躍起になって走る理由がない。謡はともかく、高いヒールの紗姫は、走ること事態に無理があった。

「おーい、丑都渡……じゃなかった、魔女様もまじめに走れよー？」
「何いってんの？　マラソンなんてやるわけないじゃん。マジだるいんだけど」
紗姫は自前の金髪を振って、やおら立ち止まると謡に居直った。
「そうだ、いきなし！　じゃねーや、魔法のほうき！　乗せな」
「へ!?」
「魔女は魔法のほうきに乗るもんだし。ほら早く早く」
「ま、まあそりゃそうだがさすがにキツイだろ？　見ろこの行梨君の細筆モヤシボディを！」
謡の必死の抵抗はここまでだ。自分でもわかっているのである。『魔女様』に逆らうことなんてできないのだ。逆らいたいなんて、思っていないのだから。
「へいへい。どこがか弱い女の子やら……」
「あ？」
「いやいやなんでも。よっこいしょっとー」
「バカ！　そんなに重くないし！」
紗姫にぽかぽかと頭を叩かれながら、魔法のほうき＝謡はよろよろと飛び立ち（？）始めた。