深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　「四月ちゃん、いいね、似合ってる！　こんなキュートなキョンシー見たのは初めてだよー」
　多喜勇生は本日のパートナーとなる、常盤四月の仮装をベタ褒めだ。その言葉は彼の偽らざる思いを表していた。四月は袖の長い独特の中国風の着物にそろいの帽子をかぶり、両手をぴんと突き出して見せる。中国のアンデッド、キョンシーの姿を模していた。動く死体であるキョンシーは血の気のない顔色に硬直して曲がらない手足と、不気味な特徴を備えているが、四月のキョンシーは実にかわいらしいものだった。さすがに飛び跳ねてレースをするのは無理があるから、普通に手足を曲げて走る。

「多喜君もすごくエキサイティングでおもしろ……違った、かっこいい！」
目立たぬ存在、モブ系男子という肩書きは本日返上すべきだろう。勇生はいつもの彼からは想像もつかない大胆な衣装を身に着けていた。体にぴたりと張り付くタイトな黒いベストに、同素材のタイトなパンツ。ベストの前は大きく開き、ちらりとおへその周りが見えるようになっている。何重にも巻かれたアームバンドにはチェーンがつけられ、手錠のようにも見える。ハードなチョーカーで首元を戒められ、顔には仮面、頭には無数のピアスで飾られた長いウサギの耳がついている。名づけて『拘束系バニーボーイ』だ。

（や、やりすぎだったかな？）
今更ながらそんなことを心配する勇生に贈られたのは、四月の満面の笑みと賞賛だった。というのも、勇生のコスチュームは、四月の大好きな漫画のキャラに実によく似ていたからである。
「そ、そうなの？　審査の時はそんな風にしてみようかな」
引かれなかった、それどころかとても喜んでもらえている。勇生に笑顔が浮かぶ。ただし、いつも眼鏡で隠している、目つきの悪い顔の上半分は今日も仮面に隠されていてよく見えない。四月のテンションは勇生以上に高まっていた。
「多喜君に似ているっていうそのキャラはね、ヒャッハー系のアッパーテンションなんだけど、仲間のピンチには颯爽と現れてキメてくれるの。そのギャップがすごくイイ……って、あっ！」
「どうしたの？」
「う、ううん。とにかく、すごくかっこいいよ！」
（自分ひとりで盛り上がっちゃってた。好きなことの話になると止まらないや。多喜君に呆れられてないかな……）
勇生と四月はゆっくりとスタートを切る。お互いの仮装に新鮮さと感動を覚えながら、また幻滅されたらどうしよう、と初々しい恐れを抱きながら。
（今日は萌えトークも腐れトークも自重だよ、四月！）