深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　黒い上下にドレスシャツ、ゆるく巻かれたリボンのようなタイ。中世の音楽家のような優雅な装いで立つ二人を、実の兄弟と信じる者も多いだろう。市橋奏楽と市橋誉は、そろいの仮装で参加していた。

「仮装といっても着易いし、動きやすいよ。ありがとう」
「ああ。これなら抵抗はないだろ？　コンサートの衣装と大差ない」
誉は無邪気に笑っている。衣装は兄の奏楽が選んだものだ。走りやすく、派手すぎず地味すぎず……。そしてなにより、弟が喜びそうだと考えて選んだ。二人の絆である、音楽に関連した仮装。
（気に入ってくれたみたいでよかった）
受け取ってくれた時の弟の顔を思い出す。うれしそうな誉を見て、奏楽も本当に幸せだった。そう、出発するまでは。二人並んでゴールを目指せるのだと奏楽は信じていた。

　バックスクリーンのアナログ時計が、かしゃり、と零時を指し示す。小さな無数の太陽のように照明が次々と光を増し、スタジアム内をかっと照らした。そこに浮かび上がる参加者たちの姿は多種多様。海賊、魔女っ子、騎士に人気のキャラクター。全員が思い思いの仮装をしているのである。華々しいファンファーレが鳴り、中央に設置された演台に二つの人影が現れる。会場に集まった人々は一斉にそこに注目した。
「お集まりのみなさん！　ボナセーラ（こんばんは）！　寝子島町長の中沢リッカルドです。深夜ながら、これほどの数の参加者にお集まりいただいて、感謝に耐えません！」
両手を広げ、オーバーアクションで感謝と感激を伝えるリッカルド町長のあいさつに拍手が巻き起こる。
「本日のこのイベント、『寝子島島民親睦第一回深夜仮装マラソン』は、スポーツを通じて、寝子島を愛する人々の親睦を図るハートフルなイベントです。点数による上位入賞はありますが、その得点方法もマラソンによる実力点、仮装による芸術点、そしてクエストと三種類用意されています。自分の得意な方法で点を稼ぐのもいいですし、点数にこだわらず、イベントを楽しんでいただいてもけっこうです」
更なる拍手の渦に、マイクを高々と掲げてリッカルド町長は開会のあいさつを結ぶ。
「我々はこのイベントに関わるすべての人々を歓迎します。それでは！」
差し伸べられた手のひらの先には、壇上に上がったもうひとりの人影……というよりは魚影と言うべきだろうか。誰もが知る寝子島のマスコット、観光大使の寝子サンマさんがいた。縦にまっすぐ伸びた魚の体から出ている人間の腕の部分からは、意外といい体を想像させる。サンマさんはスターターピストルを手にしていた。
「時間だぜベイビー！　仮装ランナーたちは位置につけ！　クエストスタッフは会場に移動してるな？　屋台や救護班などその他のスタッフは準備OK？　それと、応援野次馬の連中は思いっきりやれ！　いいか？」
おそらく人間の耳がある辺りに左手を当て、右手のピストルを高く構える。
「用意！」
競技開始を告げる音が、パァンとバックボードにこだまする。色とりどりのランナーたちは、一斉にスタジアムを一周し、外のコースへと飛び出して行った。同時にバックスクリーンの巨大ディスプレイには、走る人々の姿が映し出される。

【寝子島島民親睦第一回深夜仮装マラソンルール解説】
以下の1～3の方法で得点を獲得し、総合得点の多いランナーが入賞となる。

　　1）マラソン完走点【1位100点、2位90点、3位80点、4位70点、5位60点、6～10位50点】
　　2）仮装の芸術点【マイナス50点～プラス100点】
　　3）コース中にあるクエストの達成点【各10点、合計30点】

特殊ルール
単独でマラソンが困難なものは二人一組のユニットを組んでよい。
その場合、3)のクエスト達成点のみを倍とする。