深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会｜リアクション

深夜激走！　寝子島仮装マラソン大会

　寝子高体育科二年のクラスメイト、行梨謡と丑都渡紗姫の二名は、いちおう揃いのテーマ仮装をしているということになっていた。テーマは『魔女と魔法のほうき』。もちろん紗姫が魔女、謡がほうきである。
「この衣装格差、なんだろうな……」

謡は思わずひとりごちる。リボンの結ばれた魔女帽にコウモリをイメージしたマント、ベアトップとティアードミニでアレンジした姫カワ系魔女に変身した紗姫に対し、ほうきを演じる謡はTシャツにランニングウェア。髪の毛を上にまとめて固めているのだが、そのシルエットはほうきと言うより、筆だ。ご丁寧にTシャツに『筆』というロゴが書かれているせいで、謡の仮装はいよいよ正体不明の様相を呈してくる。しかし、今日の寝子島では、この程度の服装を指差す者は誰もいない。
「まあ、こんだけ変な格好してる人だらけだと、自分のことなんて気にしなくていいか！　楽しくなってくるよな？」
「まーね。夜とかあたしの時間って感じだし。衣装も気合い入れて金かけたしね。楽しむとすっかー！」
ほうきの首から伸びる鎖を引っ張って、紗姫はけらけらと笑った。なぜ魔法のほうきが人型で、筆のような頭で、首に鎖がついているのか。それはこの二人にしかわからないことだった。

　長い髪を覆うベールに、広がりの少ない黒いロングスカート、デコルテを戒めるかのような首もとの高い襟付きケープ。小倉杏子は動きやすいとは思えないシスター服に、なぜかバズーカを背負った仮装をしていた。会場には一人でやって来た彼女だったが、最近距離の近い荒海藤吾を見つけるや、
「あっ！　荒海さーん！」
とうきうきとして駆け寄っていったのだった。藤吾はといえば、興味のないイベントに無理やり誘われ、しかも仮装までさせられてと、むすりとした表情を隠しもせずにいた。強面長身の藤吾が扮しているのは、かのフランケンシュタインズ・モンスター、罪人の体をつなぎ合わせて作られた悲しき人造生命体である。

人々が思わず遠巻きにする凄味のある仮装の藤吾に、子犬のように喜んで近寄ってくるのは杏子だけだった。藤吾は名を呼ばれて怪訝な顔をしたが、ベールから隠しきれずにあふれるふわふわとした白い髪で、このシスターの正体に思い当たる。
「ん？　小倉か」
「そうであります。荒海さんもマラソンでありますか？　もしよかったら一緒に走りましょう、であります！」
知り合いを見つけてはしゃぐ杏子は飛び上がらんばかりの喜びようだ。
「ちょうどひとりで走るか考えてたし、一緒させてもらうか」
「やったあ！　ありがとうございますう！」