【三寮祭】猫鳴館、アロハ・オエ♪｜リアクション

【三寮祭】猫鳴館、アロハ・オエ♪

●噛み合わないふたり

「屋台ばっかりで自分のこと忘れちゃだめですよ？　お客さんも落ち着いてきたから、休憩してきてください」
　母親みたいに寮のみんなのことを気に掛ける立花深紺灯に言われて、それもそうだと思った北里雅樹は、休憩を取って地下の温泉に向かった。
「確かに朝から働きづめだったしな。ふぅ、疲れが癒される」
「雅樹？」
　湯煙の向こうで問いかけてきたのは、偶然にも元カノの椎井莉鳥だった。
　莉鳥は水着姿である。幼馴染だし一度は恋人関係でもあったので、そのスレンダーな身体は幾度かまなこにおさめたことがある。莉鳥にしても同様だ。だから今更ドキリとするわけでもなく、なんとなく並んで湯に浸かった。
「猫鳴館、はじめてじっくり見させてもらったけど、すごいところに住んでるのね」
「すごい、か。三年目だからヘンなのかヘンじゃないのかわからないや。感覚鈍ってきてるな」
「たまには家に帰れば？」
「うーん、あそこにはキラウェア火山がないしな」
「何言ってるのかわからない。それにあの廊下の工作物、もうちょっとマシに作れないの？　塗りが甘いわよ」
「いやいや、いい出来だっただろ。あのちゃんと塗ってない感が逆にリアルっていうか」
「ぜんぜんわからない」
　そんな感じで噛み合わない会話を結局はいつものようにかわす。
　雅樹は思った。
　あと１０分ほどしたら仕事に戻らなければいけない。
（けれどなんだか、）
　離れがたい気がする。
　元カレの莉鳥はどう思っているのだろう。横顔をそっと伺ってみたが、いつも通りの無愛想な顔で、その心は計り知れなかった。

　結局、雅樹は５分遅刻した。深紺灯は笑って許してくれた。
　猫鳴館は賑やかに、そのあとも楽しい時間が続き――やがて夕刻が訪れた。