【三寮祭】猫鳴館、アロハ・オエ♪｜リアクション

【三寮祭】猫鳴館、アロハ・オエ♪

●萌えろよ燃えろ

　ぱちぱち……。
　お客さんたちの帰った猫鳴館。裏庭のキャンプファイヤーは黒くなった薪の中でまだ燃え続けている。
　残っているのは寮生たち。
　それぞれ手にジュースやお茶を持って、高く掲げる。
　橘明里が音頭を取った。
「みんな、お疲れさまでしたなの！　いっぱい楽しんでもらえましたなの！　かんぱーい！」
　綾辻綾花は残ったご飯でおにぎりをつくり、皆に配った。
「はい。海原先輩も」
「ありがとう。綾辻、ずいぶん準備を頑張ったみたいだな」
「そんな……。でも、はい。せっかくのお祭りなので、頑張りました」

　雨崎荒太郎が、北里雅樹にファイアーダンスを伝授している。
「こう回せばいいのか？」
「そうそう。上手いがんす！」

　神野美野梨がサキリ・ディジーカッターに尋ねている。
「そういえばハワイアンカレーを食べた人たちがみんな笑い上戸になって『凄いよ！　猫鳴館マジハワイだよ！！』って言ってたけど、サキリくん、カレーに一体何を入れたの？」
「玉ねぎとパイナップルとココナツミルクとルーと……そうそう、隠し味に台所にあった『凄いよ！　猫鳴館マジハワイだよ！！』ってラベルの缶の中身を少々」
　はぁーっ、と美野梨はふかいため息。
「原因はそれね」

　綾花が持ってきた、去年の夏の残りの線香花火を楽しみながら打ち上げをする。
　結城永遠と立花深紺灯は、無言で、けれどとても満ち足りた気持ちで、線香花火の球からか細く伸びる火の粉を見つめていた。

　明里は疲れたのか、いつのまにか伊賀解理の肩に凭れ掛かって眠っていた。
「おやおや。お疲れ様、自治会長殿」
　解理はしばらく明里に肩を貸すことにした。
　明里のむにむにと口元が動き、「えへへ」と笑い声が漏れる。
　きっと楽しい夢をみているのだろう。
「頑張ったね」
　解理は明里の頭をそっと撫でた。
「……そういえば、貴子さんの姿が見えないな」

　そのときである。額に青筋を立てた北風貴子が、ハワイアンな眼鏡を光らせ、手には大量の薄い本を持って、ずんずんキャンプファイアーの残り火に近づいて行った。
　わー、やめろー！　と、寮生の男子や女子が涙目で貴子を追いかけてくる。
「ちょ、どうしたんだい貴子さん！」
「ずっと我慢していたけど、これ以上無理！　猫鳴館の風紀、正してあげるっ！！」
　貴子は手にしていた薄い本を躊躇いなく火の中にくべる！
「ぎゃあああああ！！！　また恒例のエロ本テロだーー！」
「今回はないかと思ったのにーー！！」

　物陰でわる～い笑みで、くくく、と嗤うのは骨削瓢。
　
「北風はんを唆して館のエロ本を回収させ、キャンプファイヤーの燃料にする……我ながらカンペキな計画さぁ！　今回のエロテロで矢面に立つのは北風はんだからあっしに怒りの矛先が向かないという二段構え。くくく……」

　どんどんどんどん！

　火勢が強まる。

「ああー！　なんてもったいない！」
　海月珊瑚が嘆く。自分のものではないが、薄い本は世界の財産だ！
　いや……。
　こうも考えられる。
　この世は諸行無常。この気持ちを胸に、また新たな煩悩を生み出せばよい。
「くぅー。逆境はご褒美なのだわ。負けずに今日の素敵カップルで妄想するのだわ！」

　ま、でも、エロ本とは関係なく生きている寮生たちは暢気なもので。
「たーまやー！　って、ちがう？」
　ミミ・アハユルはまた高く燃え上がった炎を見つめて今日という日を振り返る。
　人形探しにミドリムシジュースにカレーにドラム缶風呂。みーんな楽しかった。

「あー今日が終わらないといいのになー」

　お焚き上げの白い煙は、夜空に高く上ってゆく。
　星がキラキラ、煌いていた。

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