- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
水底の世界
「世界から巣立つんだ」
温かな光放ち舞い散る蒼い鱗の中、修は微笑む。
己を育てた世界を離れることを、せめて前向きにとらえて欲しかった。己の選択を肯定し、踏み出してほしかった。
「行こう、ユニ」
修の言葉に、ユニは立ち上がる。少し難しい顔をしたかと思えば、小さな指先で蒼い水の一点を指し示す。
ぷかりと人の大きさに膨れ上がった透明な水珠の向こう、月の光に浮かび上がる海岸が見えた。
「寝子ヶ浜海岸だ」
静かに寄せる波の音さえ聞いた気がして、修は淡く微笑む。自身の住む島を背に、ユニに手を差し伸べる。
「ようこそ寝子島に」
「……うん」
導くように先に立つ修の背を送り、続こうとした足が止まった。
空を仰ぐ。
空に走ったひびを塞ぎ、町を守り通した先代の『町を護る巨獣』の欠片を見つめる。若菜が花弁のように散らしてくれた蒼い鱗の欠片をひとひら、掌に受け止める。
「……じいちゃん」
呟いて、そのひとひらだけを掌に握りこむ。水珠をくぐり、自分たちの世界へと帰って行く人々の背中を見送って、少年は後ろを振り返った。自分の手で破壊してしまった自分の町を見下ろし、悲しい息をひとつ吐き出す。
「ごめんなさい」
捨てるのではなく巣立つのだと、優しい人は言ってくれたけれど。そう告げることで背中を押してくれたけれど。
それでもまだ、申し訳なさが胸に冷たく固まっている。
悲しさのあまり、大切だったはずの故郷を壊してしまった。町はもう決してもとには戻らない。自分が居なくなれば、ここはもう本当に誰も居なくなる。真実、滅んでしまう。
冷たい掌が片手を掴む。
振り返った途端、ふわり、白い衣が視界を覆い尽した。
「……ねえ」
頭上から降るやさしい声を仰ぐ。町を包む蒼と同じ色した碧い瞳をそこに見た。
「僕としては、他の誰の気持ちより君の意思を尊重したいと思ってるよ」
晩夏に降る露よりも密やかな声音で、袖の中に閉ざした少年以外の他の誰にも聞こえない声で、白露は問う。
「君は、この街と共に死にたい？」
この場に集った誰もが、彼の生存を望んでいる。言葉と心を尽くして、宥められ慰められ、彼は滅びゆく己の世界を離れることを選んだ。寝子島に移り住むことを選んだ。
けれどそれは、本当に彼の選択なのだろうか。
(まぁ、最終手段だ)
だからこそ、最後の最後であるこの時に聞いておかねばなるまい。彼自身が本当に選んでおかなければ、今生き延びることが出来てもその先を生きることは難くなる。
「君が心から願うのであれば、誰もいないところで僕が殺すよ」
死なせてあげる、でもなく、殺してあげる、でもなく。確たる意志でもって白露はその言葉を口にする。
それが汚れ仕事であると自覚している。この場の誰もが経験するべきものでないと、見るものでもないと信じている。
「僕はそれを厭わない。誰にも言わない」
死もまた選択のひとつ。どれだけ他人の心を受け入れようとも、己の意志を定めるは、結局は己自身。
「君が選ぶんだ」
白露の纏う真っ白な衣装の闇に包まれ、ユニは蒼い瞳を幾度となく瞬かせた。白露を仰ぎ、笑う。
「ありがとう、兄ちゃん」
蒼い髪を水に揺らす少年の笑顔に、白露はほんの僅か面食らったように眼を瞠り、すぐに朗らかに笑い直す。何事にも、生死にさえも拘らぬ青年の白い狩衣の腕から脱け出し、ユニは碧く蒼い水の中、踊るようにくるりと宙返りをした。足元の白砂をふわり雪のように舞い上がらせ、立つ。
「おれは――」
「おれは、生きるよ」
言葉ひとつ蒼い水の中に残して、水底の世界から最後の住人が旅立つ。
温かな光放ち舞い散る蒼い鱗の中、修は微笑む。
己を育てた世界を離れることを、せめて前向きにとらえて欲しかった。己の選択を肯定し、踏み出してほしかった。
「行こう、ユニ」
修の言葉に、ユニは立ち上がる。少し難しい顔をしたかと思えば、小さな指先で蒼い水の一点を指し示す。
ぷかりと人の大きさに膨れ上がった透明な水珠の向こう、月の光に浮かび上がる海岸が見えた。
「寝子ヶ浜海岸だ」
静かに寄せる波の音さえ聞いた気がして、修は淡く微笑む。自身の住む島を背に、ユニに手を差し伸べる。
「ようこそ寝子島に」
「……うん」
導くように先に立つ修の背を送り、続こうとした足が止まった。
空を仰ぐ。
空に走ったひびを塞ぎ、町を守り通した先代の『町を護る巨獣』の欠片を見つめる。若菜が花弁のように散らしてくれた蒼い鱗の欠片をひとひら、掌に受け止める。
「……じいちゃん」
呟いて、そのひとひらだけを掌に握りこむ。水珠をくぐり、自分たちの世界へと帰って行く人々の背中を見送って、少年は後ろを振り返った。自分の手で破壊してしまった自分の町を見下ろし、悲しい息をひとつ吐き出す。
「ごめんなさい」
捨てるのではなく巣立つのだと、優しい人は言ってくれたけれど。そう告げることで背中を押してくれたけれど。
それでもまだ、申し訳なさが胸に冷たく固まっている。
悲しさのあまり、大切だったはずの故郷を壊してしまった。町はもう決してもとには戻らない。自分が居なくなれば、ここはもう本当に誰も居なくなる。真実、滅んでしまう。
冷たい掌が片手を掴む。
振り返った途端、ふわり、白い衣が視界を覆い尽した。
「……ねえ」
頭上から降るやさしい声を仰ぐ。町を包む蒼と同じ色した碧い瞳をそこに見た。
「僕としては、他の誰の気持ちより君の意思を尊重したいと思ってるよ」
晩夏に降る露よりも密やかな声音で、袖の中に閉ざした少年以外の他の誰にも聞こえない声で、白露は問う。
「君は、この街と共に死にたい？」
この場に集った誰もが、彼の生存を望んでいる。言葉と心を尽くして、宥められ慰められ、彼は滅びゆく己の世界を離れることを選んだ。寝子島に移り住むことを選んだ。
けれどそれは、本当に彼の選択なのだろうか。
(まぁ、最終手段だ)
だからこそ、最後の最後であるこの時に聞いておかねばなるまい。彼自身が本当に選んでおかなければ、今生き延びることが出来てもその先を生きることは難くなる。
「君が心から願うのであれば、誰もいないところで僕が殺すよ」
死なせてあげる、でもなく、殺してあげる、でもなく。確たる意志でもって白露はその言葉を口にする。
それが汚れ仕事であると自覚している。この場の誰もが経験するべきものでないと、見るものでもないと信じている。
「僕はそれを厭わない。誰にも言わない」
死もまた選択のひとつ。どれだけ他人の心を受け入れようとも、己の意志を定めるは、結局は己自身。
「君が選ぶんだ」
白露の纏う真っ白な衣装の闇に包まれ、ユニは蒼い瞳を幾度となく瞬かせた。白露を仰ぎ、笑う。
「ありがとう、兄ちゃん」
蒼い髪を水に揺らす少年の笑顔に、白露はほんの僅か面食らったように眼を瞠り、すぐに朗らかに笑い直す。何事にも、生死にさえも拘らぬ青年の白い狩衣の腕から脱け出し、ユニは碧く蒼い水の中、踊るようにくるりと宙返りをした。足元の白砂をふわり雪のように舞い上がらせ、立つ。
「おれは――」
「おれは、生きるよ」
言葉ひとつ蒼い水の中に残して、水底の世界から最後の住人が旅立つ。
あとがき
担当マスター：
阿瀬春
ファンレターはマスターページから！
お待たせいたしました。
水底の世界の物語、お届けにあがりました。
蒼と白の町でのお話は、これが最後となります。
最後のお話、みなさまの心温まるような優しいアクションのお陰をもちまして、救いのあるお話とすることができました。ありがとうございました！
水底の世界から旅立った子どもは、しばらくは寝子ヶ浜海岸付近の海で暮らしつつ、力の使い方を覚えて寝子島で暮らす方法を模索するつもりのようです。陸で暮らせるように本体を『作り替えて』みたり、本体は海の底に置いて『端末』を陸に上がらせてみたり。
もしもいつか、寝子島で蒼い髪の少年がうろうろしているようなことがありましたら、よろしければ仲良くしてやってください。
ご参加くださいまして、お読みくださいまして、ありがとうございました！
またいつか、お会いできますことを楽しみにしております。
水底の世界の物語、お届けにあがりました。
蒼と白の町でのお話は、これが最後となります。
最後のお話、みなさまの心温まるような優しいアクションのお陰をもちまして、救いのあるお話とすることができました。ありがとうございました！
水底の世界から旅立った子どもは、しばらくは寝子ヶ浜海岸付近の海で暮らしつつ、力の使い方を覚えて寝子島で暮らす方法を模索するつもりのようです。陸で暮らせるように本体を『作り替えて』みたり、本体は海の底に置いて『端末』を陸に上がらせてみたり。
もしもいつか、寝子島で蒼い髪の少年がうろうろしているようなことがありましたら、よろしければ仲良くしてやってください。
ご参加くださいまして、お読みくださいまして、ありがとうございました！
またいつか、お会いできますことを楽しみにしております。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2017年12月15日
- 参加申し込みの期限
-
- 2017年12月22日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2017年12月22日 11時00分
