隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）｜リアクション

隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）

　肩口に微かに触れる金色の髪。軽い仕上がりの麻の服を着たエヴァ・ブランシェが石橋の中央を軽やかに歩く。
「お宝ゲットのためなら全力よ」
　エヴァは『宝』と書かれた扇子をやおら開いた。特に行動で周囲から奇異な目を向けられることはなかった。
　門番は横目の確認で済ませた。
「外観と同じで中も相当なものね」
　エヴァは顔の辺りを扇子であおぐ。
　屹立した大小の尖塔が立ち入った者の視野を埋め尽くす。人々は矮小な蟻と化して石畳の道を散り散りになった。
「ここに囚われた者がいるとすれば」
　エヴァは扇子を閉じた。その先端を値踏みするかのように動かして、左前方の塔の上部で止めた。そこにはアーチ状の窓があった。
「塔の中よね」
　エヴァは手近の塔に向かう。巨人の口のような薄暗がりに踏み込んだ。
　壁面の随所にカンテラが吊るされていた。淡い灯は生者を羨む人魂のようでもあった。
「意外と明るいわね」
　雰囲気に呑まれることなく、速やかに丸い空間の中心に立ち、頭上を見上げた。螺旋階段を繋ぐ通路が幾重にも重なっていた。左を向けば、横並びの塔で形成された通路が長々と続く。終わりは小さな光の粒で見えた。
「お宝ゲットの前に、同じ目的の仲間を探した方が早いかもしれないわね」
　骨が折れるという表現なのか。自分の右肩を揉んで、やれやれ、と声を出した。
　エヴァは、ちっぽけな光明に向かって歩き始めた。