隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）｜リアクション

隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）

　青い縦縞のシャツに黒いスラックスを穿いた佐藤英二が街中を行く。手には四角い厚みのある鞄を提げていて、自社製品のカタログを持ち歩く営業職然としていた。
「簡単に街に入れたのはいいが」
　人通りは悪くなかった。ただし多いと即断するのは躊躇われる。街の入り組んだ作りと広さが人の感覚を麻痺させるのかもしれない。
「まずは試してみるか」
　英二は人の出入りの少ない塔の中に入った。主に通り抜けに利用されているらしく、先に入った人物は正面から出ていった。
「誰もいない今なら」
　英二は特殊能力を発動した。中央で綺麗に分けられた黒髪は瞬時に青くなり、目元に掛かる程度に伸びた。目鼻立ちがはっきりして薄い唇には薄っすらと赤みが差す。女性らしい身体つきは麻の外套で覆われた。
「囚われた者と同じ青い髪だ。周囲の反応は、あるのだろうか」
　多少の心配を口にして英二は通りに戻った。
　人々の好奇の目が集まる。英二は瞬く間に俯いて足を速めた。
　目元を覆う前髪のせいなのか。英二は行く先々で人にぶつかり、ごめんなさい、と何度も口にした。最後は塔の間に出来た、僅かな暗がりに逃げ込んで変身は解けた。
「注目されるのが苦手でも、これでは意味がない」
　塔の壁を拳で叩いた。
「ここは現実とは違う。ゲームの中なんだ」
　よし、と英二は通りに向いた。人々の流れを目に焼き付けるようにして二度目の変身を遂げた。