隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）｜リアクション

隔絶された街の囚われ人（ＭＭＯＲＰＧ寝子島奇譚）

　高校の制服姿で御剣刀は世界に降り立った。底が見えない峡谷の向こうの街を眺める。
「思っていた以上に大きな街だな」
　素っ気ない感想を述べて刀は一方に歩を進める。真裏に位置するのか。石橋を目にすることは出来なかった。
「丸腰で来てしまった。誰かに剣を貰うか」
　刀は足を止めずに道端の樹の枝を一瞥した。
「枝を武器にしてもいいか」
　樹を素通りすることで提案はあっさりと流された。時間を惜しんだのかもしれない。
　石橋の一部が見えてきた。少し腕の振りが大きくなった。
「もどかしいな。特殊な能力でもあれば」
　言葉は唐突に途切れた。歩く速度が急激に落ちる。
「特殊能力の選択を忘れた。終わったな、俺」
　表情は苦々しいものに変わって俯き加減に歩いた。ボサボサの髪型と相まって悲壮感が漂う。
　刀は時間を掛けて石橋に到着した。精緻に組まれた石畳に視線を落とし、ゆっくりと顔を上げていった。
「門まで結構な距離だ。一気に駆け抜けたら爽快だろうな。能力のない俺には無理か」
　刀は前屈みの一歩を踏み出す。周囲の人の流れは速く、次々に追い抜かれていった。
「意気込んできて、これとは」
　刀は歩きながら自分のこめかみに人差し指を当てた。銃口を宛がっているように見える。バン、と口にした瞬間、劇的な変化が起こった。
「って、あれ？　俺のろっこんが使える？」
　歩いている人が止まっているかのようだった。刀は全力を越えた速度で門に迫る。
「目立ってない、こともないが突っ込む！」
　見知った顔には高速で手を上げて刀は街に突入した。

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