放課後何する？｜リアクション

放課後何する？

　よし、今日も終わった！　と、ロベルト・エメリヤノフは学校を出た。
　部活もアルバイトもない日のことだ。
（んー、どうしようかな。受験に向けて絵の勉強もやらないと、とは思うんだけど……）
　最近ずっと勉強してた気もする、と認識すると、肩に荷を負っているような感覚が襲う。
（……そうだ。今日は、ちょっと息抜きの絵を描こうかな？）
　少し肩が軽くなったように感じて、すぐに、ロベルトは辺りに眼差しを巡らせた。
（絵を描くとなればモデルが必要だよね！　美少年をナンパしよう……じゃ、なくて！）
　――こう、良い感じに親睦を深めてモデルしてもらおう、うん！
　自分で自分の心に言い訳（？）をして、ロベルトはわくわくと美少年ウォッチングに励む。
（あ、あの子可愛い！　いや、でもあっちの子も……って、ハッ！？）
　見開かれる、茶色の双眸。
　本屋から出てきたのは、ロベルトの理想にぴったりと填まる美少年だったのだ！
（歳は中学生くらいかな？　身長は１６０ｃｍいってないね。それに、あの顔つき……）
　かんばせが美しい、というだけではない。
　その少年の顔立ちや表情から滲む、絶妙な尖り具合ときたら！
（あの子は絶対にツンデレだ！）
　胸の内にはそんなことを思いながら、ロベルトは少年へとにこやかな笑顔をして近寄った。
「やあ、いい天気だね。もし時間があるなら、僕と一緒に美味しいカフェでもどうかな？」
「……オニイサン、その誘い文句怪しすぎ。ホイホイ付いてくみたいに見えた？」
　しらっとした眼差し。甘さの残る声に乗る冷ややかな色。
　けれど、ロベルトはそんなことではめげない！
「あはは、だよね。実は僕、芸術科で絵を描いてるんだ。それで、モデルになってもらえないかなって」
「ああ、そういう。で、怪しい絵描きのオニイサン、それって僕にメリットある？」
「さっき美味しいカフェって言ったでしょ？　あれ、星ヶ丘の店なんだ」
　是非モデルになってほしいから奮発するよ、との言葉に、
「……まあ、話くらいは聞いてもいいけど」
　と、少年はぽそりと応じる。
　美少年ソムリエの勘は正しく、少年は立派なツンデレでした。

　そして、星ヶ丘のカフェにて。
「うん、やっぱり美味しい！」
　にこにことケーキを頬張るロベルトの横、少年はジト目になって、
「……何で隣に座るわけ？」
「まあまあ。でも、本当にいいカフェでしょ？」
「それはまあ……認めなくもない、けど」
　ケーキをぱくりとして俯く少年の腰へと、ロベルトはそっと手を回した。
「で、モデルの件なんだけど……」
「オニイサン、ひっつきすぎ。……でも、いいよ。モデル、してあげても」
「ほんとに？　やったー！　えへへ、描き終わったらそれ以上のことも……」
「……今すぐ帰ってもいいんだけど」
「えっ、ダメ？　そ、そんなぁー……」
　なんてわちゃわちゃしつつも、「きっとこれで……」とロベルトに確信を抱かせたケーキ作戦は大成功だ。

　食後再び場所を移して、ロベルトは少年の姿を紙の上に描いていった。
「綺麗だね」
「そう、もっと……うん、そこがいい。動かないで」
　なんて、甘やかな声音で彼に声を投げながら。そして。
「……よし」
　描き上げた絵を、ロベルトは真正面から見つめる。
　そうして――「うーん……」と、眉を下げて首を傾けた。
（成長……出来てるのかな……僕の絵）
　自分に問うても、答えは出ない。けれど。
「……オニイサン、怪しいだけじゃなかったんだね」
　大丈夫だろうか、というロベルトの不安を打ち消すような感じ入った声で、少年が言う。
（おっ、なんか喜んでくれたみたい？）
　なんか今日は比較的うまくいった気がすると、少年の端正な横顔を目に、ロベルトは頬を緩ませた。