放課後何する？｜リアクション

放課後何する？

　放課後、トワ・E・ライトフェロゥは寝子島高校を目指していた……はず、だった。
「Hey！　話は聞かせてもらったデス地球は滅亡する！」
　それが何の因果か、ばばん！　と何でも屋『いぬもり』の古い戸を開け放っている不思議。
　電話を置いたところらしい店の主――犬杜一閃は、トワの登場に僅かに目を瞠った。
「……俺の記憶が確かなら、地球の滅亡は１回目じゃないな」
「Destruction and regeneration、デス？」
「壮大な話だ」
「まあ、なんとなくノリとショーユでいってみたかっただけなのデスケドー」
　白飯に合いそうだな、とか何とか言いながら、来客用の湯呑みに茶を入れる一閃。
　差し出されたそれを受け取って、トワは元気良く音を紡ぐ。
「イッセン、儲かりマッカーサー！」
「……？　……ああ、成る程。ぼちぼちだ。お前は、今日はどうした？」
「トワはー、after schoolなのデス！　High schoolに行くところデス！」
「……方向が逆だな……」
「Umm、もしかするとそうかもしれないのデスケドー、冒険にはギセイがモチツキーデスカラ」
　些細な事だと思うマス！　と当のトワがけろっとしているので、「そうか」と一閃も頷いた。
　そうして、ずっと下を向いて喋っているのが辛くなったのか、その場にしゃがみ込む。
　そんな一閃へと、トワはいそいそとある物を取り出して手渡した。
「Look！　毎日がadventureデスカラ、新しく撮れた猫写真もいっぱいあるマス！」
「……初がいたら喜んだだろうな。以前のように謝礼は払えないが」
「あの依頼はmission completeデス？」
「ああ、お前達のお陰で」
「なら、ソデスネー……イッセンはー、カプセルギアやってるデス？　やってるならbattleするマス！」
「カプセルギアか。噂には聞いているが、俺の手元にはないな」
「オットー、してないデス？　Came up with！　ウイならやってるかもデス！」
「それも……どうだろうな……」
　一閃が顎に手を宛がって軽く首を傾けるのに、トワはちょっぴり不満顔。
「ヌヌヌ、ウイも知らないかもデス？　中学生も流行ってると聞いてるマス！」
「あれは、ああ見えて高校生なんだ」
　一度は食い下がったものの、最終的には「ナルホドー」と頷いて、トワは湯呑みの茶を一口啜った。
　ほう、と一息つくトワの様子を、一閃は表情筋に仕事をさぼらせたまま見遣っている。
「トコロデー、イッセンはpoker faceデスネ！」
「……そう、だろうか？」
「Merchantはー、smile！　笑顔も大事だと聞くデス！　さっそく練習するマス！」
「……え？　な、今か？」
　一閃が慌てるのなど、トワの知ったところではない。もう、全然ない。
「３、２、１、Action！　Smileするデス！」
「っ……！」
「Ah……………………これは、先はとてもlong longデスネ」
　愛らしい小学生女子の冷たい眼差しって、殺傷力が高い。
　居た堪れなくなって片手で顔を覆う一閃へと、
「イッセンには特訓が必要マス！　今からトワがinstructorに……」
　とトワが追い打ちをかけようとしたところで、彼女のスマートフォンが鳴り出した。
　湯呑みをイッセンに預け、スマートフォンを手に、青の双眸をくるりと丸くするトワ。
「オットー、high schoolに行くmissionが途中デス！」
　また来るマス！　と、春の嵐のように去っていくトワの背中を見送りながら、一閃は思った。
　――次に会う時も、彼女はまた迷子なのではないか、と。