＜月華＞悲しきアイに終止符を｜リアクション

＜月華＞悲しきアイに終止符を

「じゃあ、八神君の調査どおり、石人形の中に生きた人間はいないのね」
　紫の言葉にこくり、と頷く美咲紀。
　と、そこへサキリ・デイジーカッターが姿を現した。負傷したのか、黒く染まった傷が痛々しい。紫が手をかざし、瞬時に回復させる。
「おつかれさま。そっちは大丈夫？」
「どうにかね。魔物が次々に沸いてくる。けど、まだいける」
　彼は赤い翼を広げ、僅かに口元に笑みを広げる。紫と美咲紀が調査結果を話すと、彼は真面目な顔で頷いた。
「それじゃあ、先を行く仲間にも伝えるよ。そっちも頑張ってね」
　サキリは治療の礼を紫に述べると、風に乗って飛んでいった。美咲紀は手を振って答え、紫と共にひとまず怪我人の治療に当たる事にした。

　美咲紀の調査結果をサキリから聞いた優木遥斗は、小さく安堵した。それは、傍らを進む恵御納夏朝（の交換人格、夏夜）も同じである。
「危惧が外れてよかった」
　夏夜は静かにそういい、魔物を払おうと月長石の薙刀をふるう。遥斗も竹刀で魔物に対応し、帳の元へ少しずつ進んでいた。
「蛇那伊君たちのお陰で、比較的敵の少ないルートが通れるのかもね」
　眼鏡をかけなおしつつろっこんで粘土人形を動かす呉井陽太が、少し先を行くうさぎのウー君達の視界を確認しつつ言う。そんな彼の死角を夏夜が庇う。彼女は己の身体にねこさんシールを貼ってろっこん『重く軽く』を発動させている。そのお陰か、天狼族の力との相乗効果で身動きが普段よりかなり素早くなっていた。
「必要なら、僕のろっこんでサポートするよ」
　ろっこん発動のトリガーであるねこさんシールに余裕はあるから、と夏夜が言うと白虎の姿で敵を屠っていた志波武道が首を振る。
「何がおこるかわからない。温存しておいたほうがいいよ」
　武道の指摘はもっともだ。確かにこの魔物や石人形が蔓延る砂漠を抜けねば儀式が行われる場所にたどり着けない。が、しかし、たどり着いてからが本番なのである。
「早く行かなくちゃいけないねぇ」
　瑠樹が棒手裏剣を握り締めたまま呟き、他のメンバーも頷く。武道は視線の先に見える儀式陣を見、
「……遠いな」
　とポツリ、呟いた。夏夜はそんな彼を励ますように首を振る。
「行こう。真央一人じゃ心配だ」
　夏夜の言葉に武道は尻尾をぴん、と立てて返事の代わりにした。

　夏夜たちから少し前方。新田亮は少し離れた場所にいる骨削瓢を警戒しつつも重力の力を使っていた。
（石人形の中に人はいるのかな……？　遠くにいる面々は遠慮なくやってるようだが、これは……）
　己のろっこん『鬼人の体（サード・フォース）』で視力を上げて周囲を見、考えていると魔物の群へとサキリが炎をまとって降りてくる。そこへ重力で魔物を押しやり、サキリは笑顔で戦斧をふるって消滅させる。
「ナイスアシスト」
「どういたしまして」
　サキリと亮は僅かに目を合わせ笑いあう。だが、瞬時に背中合わせになり、周囲を警戒した。特に蛇型の魔物は音も無く忍び寄るというから要人に越した事はない。
　そして、目の前には鹿型に混じって蛇型の姿が混じっていた。それだけではない。石人形も２、３体混じっている。
（あの中に人は？）
（居ない）
２人は僅かなアイコンタクトで行動する。
（発動……、倍化！）
　亮は息を吸い、『鬼人の体』を発動させた状態で薙刀を振るい、襲い掛かる鹿型を、石人形を迎え撃つ。そして重力の力で一箇所に引き寄せた。その間にサキリは既に空を舞い、狙いを定めている。
「いくよっ」
　石人形の関節を目に留め、急降下する様は、隼の如く。サキリは刃物となって空を切り、魔物を切り裂いた。勿論、自爆しないよう地面に激突寸前でろっこん『斬空赤刃』を発動させているが。
「遠慮する必要は、無いんだろう？　なら、派手にいっても構わなかろ？」
　瓢は瓢で虚空に独楽を回すような仕草をする。と、彼のろっこん『悋気の独楽』の進化能力で局地的な竜巻が起こるのだ。
（おや？）
　風の先、儀式陣を超え、既に帳へのコンタクトを行おうとする陰が見える。それを追いかけるように、一筋の風が砂漠を突っ切り、魔物を切り払う。
「ほぅ、何か考えがあるのかねぃ？」
「……後木だからな。無茶しなければいいが」
　瓢がにぃ、と口元を綻ばせれば亮がため息混じりに肩を竦める。サキリはちらり、と隊列を見、額の汗を拭った。白鋼もまた、兵士達と共に魔物や石人形を相手に戦っている。
（それじゃあ、お手並み拝見といこうかね……真央嬢）
　瓢はにたり、と笑って真央を見送る。そうしながらも、彼は兵士に混じった手駒がどう作用するか、とても楽しみだった。

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