＜月華＞悲しきアイに終止符を｜リアクション

＜月華＞悲しきアイに終止符を

起：思惑の先へ

　見渡す限りの、白い砂。
　そして、天を覆う灰色の雲。
　白と灰色の世界に、一人の少年はこてり、と首をかしげて佇んでいた。

（あれぇ？　ここ、どこかねぇ……？）

　少年、曖浜瑠樹は初めて月華世界へとやってきた。彼は僅かに伸びた髪を風に揺らしながら兎のぬいぐるみ・ラピちゃんを抱きしめると周囲に何人ものお兄さん、お姉さんの姿を見つける。そして、足元を見ると僅かに草を見つけた。振り返れば森があり、水の匂いも感じる。
（オアシスみたいだねぇ）
　不思議そうに見ていると、白い髪の若い男性が白鋼と名乗った上で身を屈め瑠樹に声をかけた。
「君も、私の声に呼ばれたのか……。それにしては幼いな。年齢を聞いても良いか？」
「うんっ。オレ、９歳だよぉ」
　瑠樹の答えに、白鋼は「元服していない幼子を戦場に出す事になろうとは……」と頭を抱えていた。
「白鋼さん、ちょっといいですか？」
　そこに声をかける者がいた。普段はお調子者なところも見せる志波武道だ。普段は明るい笑顔の彼が少しばかり真面目な顔をしているのは、空の様子を見たからだろうか。
（この空、雰囲気がすごく嫌な感じだな）
　不安を覚えながらも、手にした扇子を見、頷く。
「武道殿か。話とはなんだ？」
「実はやりたい事があるんだ。それでちょっとお願い事があってね……」
　武道はその内容を言い、その上で「青龍族と玄武族の力で天候を動かせるか」という確認をした。
「とりあえず、王族クラスの青龍族数人で天候を操った記録が残っているが、上手くいくかはわからない。ただ、やる価値はあるだろう」
「！？　それじゃあ……！」
　武道は白鋼の言葉に、小さな希望を見出した。

　その後ろで、骨削瓢が小柄な少女、星華と対面していた。
（あらぁ、顔色が良くなって……）
　最初に瓢が思ったのはそれだった。当初呪いを悪用しようと誑かしたつもりだったが、あっさりと浄化された事に少々肩透かしを食らった気分であった。だが、初めて出会った時に比べ、元気になったような気がするのは何故だろうか？
「瓢兄様、お久しぶりにございます」
「あぁ……。うんと、今まで色々とすまんかった」
　瓢がそう言うと、星華はきょとん、として彼を見上げる。瓢はその青い眼に見つめられ、ちょっとたじたじとなった。
「まぁ、君の弱みに付け入った事を謝りたかっただけなんだよぃ」
　恨みを買うと後々面倒な事になるから、と内心で付け加えつつそういえば、星華は少し寂しげに首を振った。
「所で、ちょっと気になるから裏切ったときの事を聞きたいんだ。帳の傷の具合とか……儀式の事とか。よかったら教えてくれるかぃ？」
　瓢の言葉に、星華は１つ頷く。そして自分のお腹にそっと触れた。
「帳の身体を確かに金平糖の奔流で貫いて……お腹に大きな穴を開けたんです。けれど愛憐様の力で塞いでいるでしょうね。ただ腹部が脆くなっているかと思います。影の魔物も、影の貴人も、残留思念と影によって肉体を作っているような物ですから」
　そういいながらちらり、と空を見る。彼女はどこか遠くを見るような眼差しで、言葉を続けた。
「儀式は恐らく戦いそのものを神に捧げる舞いとし、そこで死んだ存在をそのまま生贄とする事で愛憐様を異次元から呼び出そうとするでしょうね。祭壇はその中央、帳が祈祷するのはそこです。祭壇を壊すか、儀式陣を半分以上壊せば……」
「ともかく邪魔するには儀式の中心まで行く必要があるってわけだねぇ」
　瓢はふむり、と唸りつつ手を握り締める。そして、内心でにやり、と笑った。この時ばかりは己のろっこんの進化能力を嬉しく思った。
「骨削、俺も星華に話があるんだ。いいか？」
　不意に声がした。振り返ると麒麟族の角をもった八神修だ。彼は儀式に関して色々白鋼に聞こうとしたが、星華に問うよう言われたのだ。瓢はこくり、と頷く星華に事情を説明した。
「帳が起こそうとしている儀式の方法や儀式陣、核や儀式にかかる時間など分る事だけでいいんだ。教えてもらえないか？」
「彼女が準備している段階を知らないのです。……推測の範囲でよいのならば、話せますが」
　星華は少し悲しげに答える。修はそれでも情報が欲しい、と頭を下げた。彼女は僅かに考えると、懐から一冊の和本のようなものを取り出す。
「恐らく、天帝の力を借りる陣の応用で、不吉な物を呼ぶ方角……丑寅の門へ剣を置き祈祷する形だと思われます。その核に己自身を使っていることも。詠唱に関しては解りません」
　修と瓢は予想とされる図を見、それぞれどう挑もうかと考えるのであった。

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