＜月華＞悲しきアイに終止符を｜リアクション

＜月華＞悲しきアイに終止符を

承：その心に触れる覚悟は？

　――進軍直前。

「敵は広範囲に位置する。ならば……紡錘突破だな」

　八神修の言葉に、白鋼は「それが最良だろう」と頷く。そして、とある懸念を聞いていた修は超遠距離対応のデジカメを取り出して光学６０倍ズームを使う。視線の先は、人間大の石人形だ。
（ここからいけるかな）
　修は目を細め、石人形の腕に意識を集中する。彼のろっこん『分解』は進化能力で集中さえしていれば対象に触れていなくても分解できるのだ。
　石人形の腕は、僅かにがたがた震え、やがて派手に分解した。そこに人の生身はない。それでも、痛がっているように見えるのは気のせいだろうか？
「……もう一度、近くに行って確かめたほうがいいだろう」
　修は隊列に向かいながら、親しい人物を探す。彼女に調査を依頼するためだ。ややあって姿を見つけた彼女の姿に、修は笑いかけながら調査報告をするのだった。

　＊：＊：＊

　今回は、儀式陣までつっきるために紡錘の陣で突き進む。
　だが、感情のままに赴く後木真央は、朱雀の翼を得た事を切欠に帳へむけて一人空を飛ぶ。その少女へと鹿型魔物が襲い掛からんと天へはねるも、真央はひらりとかわして突き進む。
「真央ちゃんお姉さん……やっぱり目立っちゃってるねぇ……」
　心配になった曖浜瑠樹が修から借りたデジカメで真央を見、呟く。が、修はさほど気にしていないようだった。
「大丈夫だ。真央の援護に向かった人が居る」
「本当？　……あぁ、本当だねぇ」
　修の言葉に瑠樹はデジカメを僅かに下に下ろす。と、魔物の群を風のように突っ切る御剣刀の姿があった。当初は説得組と共に進軍する予定だった真央が一人飛び出してしまったので、刀がフォローする事になったのだ。

（後木、無茶するなよっ）
　刀は、飛び出した真央を見、真っ先にろっこん『加速』で追いかけた。襲い掛かる魔物をすべて振りきり、なぎ払い、只管に真央を追う。
「帳と、話さなくちゃいけないのだ。帳を、助けたいのだ」
　真央の声が、風に混じって僅かに聞こえた。この少女は感情のままに、想いのままに突っ走る。危うい友の小柄な姿を見つつも刀にはそれが真央らしく思えている。
　只管すすむその眼の先に、赤い仮面で顔の半分を覆った女性が見えた。榊の枝ににた植物を四隅に刺し、赤い光で描かれた儀式陣の上。白木で造った祭壇に供物を乗せ、かぐわしい花の匂いにもにた香を炊いて、帳はそこにいた。
（帳……！）
　真央は彼女へと向かい飛んでいく。刀はちらりと背後を見、「なるだけ早く来てくれよ」と祈るように呟いた。

　その白い砂漠に、彼は仁王の如く舞い踊っていた。
　その手が振りぬかれ、その足が空を穿てば、黒い靄が風に解ける。これで齢１６となれば、将来は将軍かと期待されるのも無理は無い。
（やはり、そう来たか）
　白鋼は兵士たちの指揮をとりながらも、一騎当千の力を見せ付ける若者……尾鎌蛇那伊の動きを頼もしい目で見ていた。
　天狼族と化したその身体は、普段以上に気が巡りやすく集中力も高まった。そして、その気に月の光を体内で混ぜ、全身にめぐらせることにより、月長石の武具がなくても魔物を素手で屠れるようになっていた。
（想像以上に動きやすいわね）
　種族の力を使ってはいないが、蛇那伊は普段より動きやすい身体に小さく微笑んだ。その間に掌底を叩き込めば、鹿型の魔物が消滅する。蛇型は耳を済ませねば近づく音に気づけないものの、どうにか対応できていた。
「油断しないで」
　負傷者の治療に当たる仙藤紫が、麒麟族の治癒能力で蛇那伊を癒す。それに礼を述べつつも、彼は道を作るべく只管戦う。
「さすが、尾鎌さん……」
　見事な戦いっぷりに見とれてしまいそうになった椿美咲紀だったが、彼女はぷるぷると首を振った。そして少し遠い場所から彼女へと襲い掛かろうとする石人形を見据える。
「シュー君の調査では人間は居ない、と言っていましたが……。念には念を、なのです」
　そして取り出したのは手には紐で結ばれた２つの石……猟とかで使用されるボーラである。
「動かないでくださいね！」
　美咲紀が足元を狙って投げれば、見事に引っかかって石人形を倒す事に成功する。そして、徐に手を向け、意識を集中する。石人形の中に生物が入れられているなら熱量感知で何かわからないか、と考えていたのである。
（……熱は感じません。けれど、なんだか凄く嫌な雰囲気です。恐らく、生身の人間はいないでしょうね）
　美咲紀は調査結果を紫に告げる。と、紫は少し安堵した。これならば、思いっきり壊しても生贄を作る事にはならない。

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