メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

「新メニューっすかー」
「お客様に喜んでもらえるもの、ですよね」

　定休日の《Délicieux!》で、紗雪幽と御巫時子の二人が頭を悩ませている。既にあるメニューを見ながら、幽は首を傾げた。

「既存のメニューだけでも充分な気はしますけどね？」

　幽はメニューの中、うさぎを模したケーキの写真をつついて口許を綻ばせる。それに時子も微笑んで同意した。

「このうさぎケーキとか超可愛いし♪」
「ふふ、そうですよね」

　それじゃあ困るという店長の言葉に、二人は唸る。

「でもそうっすねー……」
「何か、思いつきましたか？」

　幽は既存のメニューを読みながらコメントする。

「洋菓子は可愛いのが多いけど、和菓子はそうでも無い感じ？」

　時子も幽の手元を覗き込んでは、口を開いた。

「たしかに、今あるのは柏餅ですとか、ちまきですとか、伝統的なものが多いですね」
「お客さんから日本茶使ったものー……って案貰えましたけど、基本なんか、やっぱ洋風のレシピ多いし」
「そうですね……」

　幽は暫しメニューとにらめっこして、何か思いついたのか柏餅を指差した。幽の瞳に、時子は期待を込めて見守る。

「あ、わかった。これもうさぎの形にしちゃいましょーよ」

　中の餅がうさぎ型になっているデザインを描いてから、幽はまた考え込む。暫しの思案の後、口を開いた。

「個人的には、苺大福とかも置いて欲しいかも。あんこ苦手な子供用に、生クリーム入れたのも作るとか！」
「いいですね。苺は定番ですし、人気が出そうです」

　時子は微笑んで頷く。幽は続けて言った。

「それに合う抹茶ラテとかほうじ茶ラテとかもどうっすか？」
「おおっ、飲み物かい」
「ＳＮＳにアップしたらいいねが超もらえるようなオシャレなやつ！」

　キラキラとした目で語る幽に、店員の一人がどこかからかうような声音で話しかける。

「紗雪さん、作れそうですか？」
「え、自分で作るんすか？」

　これに料理の出来ない幽は慌て、きょろきょろとバイト仲間の顔を見た。しかし誰に頼ったものかと困り果てて叫ぶ。

「せ、せんぱーい！」
「わ、私で良ければ」
「お願いしやっす！」

　そそくさと前に出た時子に、幽は頭を下げた。飾り切りをする時子の隣で、幽は調理器具を出したり、洗ったりなど、彼でも出来ることを手伝っていく。やがて柏の葉に包まれたかわいい白ウサギが完成した。出来たばかりのそれの他、試作品の日本茶ムースやマフィンをつまみながら、幽は時子に話しかける。

「せんぱいはなんか思いついた感じ？　っすかね」
「私は……」

　自分の考えを話す時子に、幽は感心したように言った。

「めっちゃいいすね」
「そんなことないですよ」

　時子の謙遜に幽はすかさずこう返す。

「そんなことないですじゃないっす！」

　延々とこういったやり取りが交わされそうなところで、店長が口を挟んだ。

「よし、じゃあさっそく御巫さんのも作って貰おうかな」
「うぃっす！」
「はいっ」

　時子は早速クレープ生地を作り、フルーツを花の形に切る。幽も時子の手元を見ながら、次々と皮を剥いてカットした。幽は時折カットしたフルーツを時子に見せる。時子はその都度頷いた。

「ここ、こうすればいいんすか？」
「はい、お願いしますっ」

　幽にフルーツを任せて、時子はチーズケーキの作成にかかった。チーズケーキは、チーズの代わりに水切りヨーグルトを使って、フレッシュで低カロリーに仕上げる。クレープ生地には、幽がクリームや花型のフルーツを乗せた。ハート型にした苺も一緒に盛って、巻く途中、その端からポロリとキウイが零れる。

「あ、こぼした！　ごめんなさーい！」
「大丈夫です！」

　花束クレープとチーズケーキを作り終えてから、時子がパンケーキを焼く。その隣、先輩から教えられながら、幽が四苦八苦してラテを飾り付けた。焼けたパンケーキは鯉のぼりの形にして、その上にクリームで目と鱗を描きだす。半分に切ったキウイを乗せると、より鱗らしくなる。

「上手です……！」
「あざっす！」

　時子は最後にリンゴのコンポートをチーズケーキの上、花のように飾り付けた。完成したそれを並べると、時子は汗を拭う。

「でき……ましたね」
「美味しそうっす！　てんちょー！」

　幽が呼ぶと、奥から店長がやってきた。店長は時子と幽が作ったメニューを見て、二人を労う。

「二人とも、お疲れ様」
「どっすか？」
「ふーむ……」

　店長は味見しながら、二人に笑いかけた。

「試食会を楽しみにしててください」

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