メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

　町役場の外もすっかり春から初夏へ移ろっていくのが感じられる。時計の針はすっかり夕方と言えるような時刻を差していたが、季節が季節だからか、まだ外は明るい。三折部朝衣は職場を定時であがって、《Délicieux!》へ向かった。久しぶりに入った店の中は、以前見たそれとは違って鯉のぼりやカーネーションの飾られたものになっている。店員が被っているのは、ちょうど子供が新聞紙で作ってつけるような兜だ。布製らしい。その様子に、朝衣は思わず、

「そうか、もう５月なんだ」

　と呟いた。カーネーションを見て、母の日もあることも思い出しては、自らの母親の姿も思い浮かべる。今年は何をプレゼントしたものかと思いつつ、新しいメニューはどんなものかとぱらりぱらりとページを手繰る。

「イースターの時期もあっという間に過ぎちゃったな」

　ふと、朝衣の目がイースターメニューの名残に留まる。この時期、彼女の職場は年度末の繁忙期であったため、行けなかったのだ。『寝子島町役場・住民課への応援デスマーチ』ともいわれるそれの真っただ中、とてもじゃないがのんびり出来るような状況ではなかった。四月半ばでやっとそれは終わって総務課へ戻ることが出来て、朝衣は今、やっと解放されたような気分である。ぱらりぱらりと、またページが捲られる。

「どれにしようかな……」

　なんて、気楽なことで悩んでいることで、改めて勤務から解放された事実を実感できた。朝衣はメニューから顔を上げて、外を見る。ゆったりと流れる時間に、ふうっと息を吐いた。

「仕事終わったなあ……」

　朝衣はメニューの中から適当に……とオムライスを選び、それに加えてデザートのページを開いた。フランボワーズ味のその、ピンク色のカーネーションを示して店員に言う。

「あとは……珈琲とカーネーション風ケーキ」
「かしこまりました」

　程なくして厨房の方からいい匂いが漂ってくる。朝衣は料理が来るのを心待ちにしながら、すぐにやってきた珈琲を口に含んだ。店の中は、様々な客で賑わっていて、どの客も楽しそうである。そうしていると、朝衣の前にうさぎの頭を模ったかわいらしいオムライスとカーネーションの花が洒落た皿に載っているような、そんなケーキがやってきた。朝衣は暫し見た目を楽しんでから、ふわふわのたまごにスプーンを入れて食べ始める。

「美味しい……！」

　中のライスも、しつこくなりすぎず程よい味わいだ。朝衣はオムライスを味わって食べ終えると、ケーキにフォークを入れた。スポンジを覆うクリームの上、さらに花弁のようにピンク色のクリームが載っている。フォークで半分に割ってみると、中はスポンジの他、フランボワーズのソースとクリームで層になっていた。それも、じっくりと味わってから余韻を楽しみつつ、珈琲を飲む。一口。朝衣はふうと息を吐いた。
　一日の疲れがこれで消えた気がする、と、そう考えながら。