春の桜に願いを込めて｜リアクション

春の桜に願いを込めて

●桜の下の誓い
　教室から出て桜並木の下へと到着すると、生徒たちは適当に振り分けられる。
　場所はまちまちだが、桜の木の下にある芝生に座って語ろうとする所が多いようだ。ここもそんなグループの一つ。
「さて、まずは俺の目標から話そう！」
　そう言ってすっくと立ちあがったのは龍目豪。
　短めの髪型と日に焼けた浅黒い肌が活動的な印象を与える。
「俺は今年、探検部部長として、みんなと鼻岬洞窟を探検したい！」
「わー……」
　ぱちぱち、日向が感嘆の声と一緒に拍手を送る。
　聞き覚えのない名前に他の生徒も興味を持ったようだ。豪は続ける。
「鼻岬洞窟は寝子島の北西にあってだな。正式名じゃねえがこないだ探検部の部員が名づけたんで、仲間内でそう呼んでる」
　観光案内やネットにも詳しい情報はない、前人未到と思われる洞窟。
　先には一体何が待っているのだろう。こんなわくわくする場所を放っておくなんて選択肢はない。
「海に面してるようだから、潮も調べなきゃならねえ。船も必要だと思うんだ」
「うん……探検部で……僕もたくさん……探検に、発見したい……です」
「もちろんだ光村！」
　そうして二人はああでもないこうでもないと会話を繰り広げる。

　蓮は目を閉じて細く息を吸い込み、ゆっくりと時間をかけて吐きだす。
「私は今よりもっと困難に挑み、たくさん挫折したいです」
　静かな空気の中、皆の耳に届いたのは殊勝な目標。
「挫折がないのは自分への過保護、危険を冒さないのは長い目で見ればより危険な事です」
　自分が死に、100年も経てばその失敗に興味を持つ人はいない。
　だからいかに失敗から早く立ち直るかが成功の秘訣と、蓮は考える。
「私は自分にできない事をもっと知り、謙遜を学びたいです」
　今も、猫鳴館の裏庭菜園、相撲部入部、吹奏楽部で弦楽器に挑戦など新しいことに挑戦し続けている。
　でも、まだ足りない。
　まだまだ理想とする己には、遠い。
「将来もっと人の役に立てるよう、今はとにかくいろんな事に挑戦したいです」
　そう、蓮は決意を秘めた言葉で締めくくる。

「はー……色々行動してるな。でも、わかる気がする」
　博美は感嘆の声を挙げつつ、蓮の考えに何か思う所があったようで真剣に頷く。
「俺の願いは、立派な格闘家になって、実家の流派を継ぎたいってことだ」
　その為には身体も心も鍛錬が必要。
　挑戦し続ける姿勢を崩さないために、失敗からの挫折から立ち直る術は、重要だ。
「でも、知勇兼備じゃないといけないとも言われているから、勉強も全力を尽くす」
　黒目がちな大きい瞳に強い意志を宿して言い放つ。
　が、ふっとその力が緩んだ。
「まあ、バランスを取るためには自分自身に余裕も必要だしな……こういう桜を見る機会を活かして、余裕を持つ心を養う場にしようって、そう思う」
　博美は空を仰ぐ。釣られるようにして蓮も、頭上に広がる春の景色を見上げた。
「そうですね……自分に真面目すぎるのもよくありません。
　陽光の下で学友と共に語らい、花を楽しむ。これも素晴らしい経験の一つであると思います」
　桜の下の語り合いはまだまだ続く。

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