晩ご飯をつくろうか｜リアクション

晩ご飯をつくろうか

■駅前にスーパーがあるとほんと助かるよね
　その日に限って、三折部朝衣の退勤は早い。
　退勤時間からほどなくしてタイムカードをきると、手早く着替えて帰宅する。
　茜色の空を眺める間もなく、途中にあるスーパーマーケットへ入ってタイムセールに乗っかるのだ。
「ふう、なんとか手に入った」
　ビニール袋をさげ、自動ドアを出る朝衣。
　大人になればお金沢山貰えて毎日のんびり暮らせるだろうなんて思っていたのは、何歳頃までだったろうか。

　今日に限って仕事を早めに切り上げたのはワケがある。
　実家住まいの朝衣にとって夕飯のメニューや買い出しはあまり気をもむようなことではないのだが、今日に限って両親が温泉旅行に出ていたのだ。
　最近流行ってんのかな、温泉旅行。
　そんなわけで、食べ盛りの弟が家で食欲の鬼と化しているのだ。
　放っておけばキャベツを丸いまま囓り尽くすことも辞さないだろう。
　家へ向かうさなか、手にかかるビニール袋の重さを確かめつつ、これだけあれば足りるだろう……などとぼんやり考えた。

　朝衣の料理スキルは可も無く不可も無い。
　子供の頃、家庭科の授業で習った程度のことはそこそこできる自負はある。
　だがへんに冒険してもよろしくないので、みんな大好きカレーライスをメニューに選ぶことにした。
　量を用意できるし作り置きもできる。肉や野菜を沢山放り込んで煮るという簡単な手順で作れるのも魅力だ。
　あと当たり外れがそうそうないし。
「そうと決まれば、早速トライ！」
　自宅の玄関を開く。
　その頃まさに、食欲の鬼が今にも冷蔵庫にかじらんばかりであった。

　魚肉ソーセージを投げて気をそらしている間（※イメージ映像です）、朝衣は早速カレーの調理に取りかかった。
　ゆーても、にんじんやジャガイモの皮を剥いてタマネギと肉をそれぞれ適度に切って放り込むという簡単作業である。
　たしか入れる順番とかあった気がするが、それを前後したくらいで味が大きく変わることはない。
　鍋の底で暫く炒め、水を投入して煮る段階へ。
　３０分そこそこ煮詰めたら適当にアクをとり、カレールーを入れてもう暫く煮る。
　この作業をマスターしたのは、結局の所オトナになってからだったように思う。
　スーパーで二割引の商品を（賞味期限とにらみ合いつつ）カゴに入れるのも、カレーを一通りフリーハンドで作るのも、みなオトナのスキルだ。
　そしてそれらのスキルはいつも、なにかのために存在している。

「慌てなくていいの、まだたくさんあるんだから」
　できあがったカレーライスを飲むような速度でたいらげていく弟を見ながら、朝衣は少しだけオトナを実感した。