バードウォッチング｜リアクション

バードウォッチング

　ある日、大天使天吏は鳥の観察が趣味である本人としては見過ごす事が出来ない話を噂を聞いた。
　何でも今、九夜山周辺でとても珍しい鳥が見られるというのだ。それも中には天然記念物に認定されているような鳥までいるという。

「……面白そうね」

　その話を聞いてから、ねこったーにて目撃情報を集めてみたところ、ベニバト、オオジュウイチ、コウノトリ、ナナイロツバメなどの情報が確認できた。
　天吏にとって、どの鳥も興味深い鳥であったが、その中でも特に注目しているのはオオジュウイチであった。

　ジュウイチならば、ある夏休みに九州にでかけた時に観察したデータがある。
　植物学者である天吏の父親が研究先であるマレーシアのボルネオ島で見かけたというスマトラオオジュウイチのデータもある。

「でもオオジュウイチは無いわね……」

　そう。オオジュウイチのデータは未だ持っていないのだ。だから、是非とも観察をしてデータを採りたいという思いがあった。
　九夜山に訪れている珍鳥の情報の中でも、オオジュウイチに絞って目撃情報を探す。
　勿論、情報を集める傍らで山に登る為の準備も進めていく。

「必ずオオジュウイチのデータを採って見せる」

　いつもの山に登るウェア、双眼鏡、ポータブルGPS、野鳥の声を録音するための小型収音マイク、遠くからでも観察できるようデジカメとフィールドスコープを合わせたデジスコ。それに水と飴を持っていざ出陣。
　実際に天吏が山に来てみると、まずはヒヨドリや燕、それにハヤブサに遭遇した。
　持って来ていたスマホでそれらの姿を写真に収めると、双眼鏡を取り出してオオジュウイチの探索を始めた。

　今、天吏がいるのは比較的オオジュウイチが良く目撃されている場所である。
　元々オオジュウイチはこの島に生息しているというわけではないのだから、巣などがどこにあるかは不明だ。だから、良く目撃されている場所で探す事にしたのである。

「……見つけた」

　ポツリと天吏が呟く。見間違いではないかもう一度双眼鏡で確認する。
　木の枝に止まる一羽の鳥。目の周りが黄色く、茶色の羽を持っているその姿に間違いではないと天吏は確信した。

　この機会を逃す事のないように、天吏はオオジュウイチを撮影する為のセッティングを迅速に行っていく。
　勿論、その音でオオジュウイチが逃げてしまうというようなミスは犯さない。

（雑誌に投稿できるような、学術的な作品を目指す……）

　それは静かだが、とても強い決意であった。
　まずは今いる場所から何枚かを。そして、その場でオオジュウイチが向きを変えるのをジッと待って、そのタイミングが来たら更に何枚かを撮る。

　それが終わったら今度は天吏自身が静かに移動する。別の角度からオオジュウイチを撮るつもりなのだろう。
　その熱意は彼女が満足するまで消える事はない。幾度もシャッターを切る内にオオジュウイチを観察できている喜びに少しだけ口元に笑みが浮かぶ。

（出来れば、鳴き声のデータも取りたいところ）

　果たして、それは叶うのだろうか？
　ここでは、その後帰り道の天吏がとてもご機嫌であった事だけを伝えておこう。