謎の少年は、雨と共に……？｜リアクション

謎の少年は、雨と共に……？

　一方、拳児は、黒髪とセーラー服が印象的な後輩と話していた。ちなみにスカートの丈がくるぶしまである辺で桜崎巴であると気づく者も多いかもしれない。
「お前も、手伝ってくれるんだってな。嬉しいよ。一人ではどうも探し出せなくてさ」
　拳児が少し嬉しそうに言うと、巴は「まだ見つかってないんだよ」と釘を指す。彼女は長い黒髪を揺らしながら、真剣な目で提案する。
「あんたは、どうしてもその恩人にお礼を言いたいんだよな。だったら……その時の状況を再現してみるってのはどうだい？」
「さ、再現？」
　思わず目が丸くなる拳児だが、巴は片目を瞑って話を続ける。
「いいかい、人間は世界の謎を解明する為に『科学』を発展させてきた。『科学的』ってのは、別の人間が同じ事をした時に、同じ結果が起こるって事さ！」
「な、なるほど……！？」
　難しい事はちょっと苦手な拳児ではあるが、妙に説得力があるのか、思わずぽん、と手を打つ。しかし、それはもう一度痛い目を見る、という事だ。
「その悪役、アタシが引き受けてやるよ。有り難く思いな」
　ニヤリ、と笑う巴だったが、そこに現れる人影２つ。龍八と赫乃だ。振り返った巴と目があった龍八は、僅かな間黙って互を見ていたが、拳児が「どうしたんだ？」と問いかけた事で龍八が話を切り出した。
「あんたが『謎の少年』を探していると聞いた。俺もちょっと興味があるんで、話を聞きたい。……あんたが喧嘩した理由と、３年生３人について教えろ」
　でなければ焼きそばパンが絡んだトラブルの際できなかった続きをする、と相変わらずの鋭さで言う龍八。しかし、拳児は「協力してくれる事はありがたいから」と、少し恥ずかしそうに話し始めた。
　先日、拳児はとある３年生が１年生の女子に絡んでいたのを目撃したらしい。女子生徒はひどく困っているようだったので拳児が間に入り、３年生を窘めたそうだ。所が翌日サシでの勝負を持ちかけられ……向かったら３人にボコられた、という。
「もしかしたら知ってるかもしれねぇけど、３年８組の田所って女好きがいてな。そいつの手下的な奴がいるんだよ。３人とも元柔道部で、前原、中居、後野だな。特に中居って奴がでかくてよ。俺が殴ってもびくともしねぇんだ」
　龍八、巴、赫乃はその話を聞き、僅かに考える。田所という先輩に関しては確かに、暗い噂を聞いたような気がしていた。

　その様子を伺っている、ボーイッシュな少女一人。愛らしい蛙のキャラクターがついたレインコートを纏った大田原いいなは仇敵と呼ぶ龍八の弱点を探ろうと、後をつけていたのである。
（ふむ？　やんきぃの赤西とやらではないか。それに桜崎殿も……。何を話しておるのじゃ？）
　物陰に隠れ、様子を伺っていると雨音の合間に、『謎の少年』の話が聞こえてくる。その噂はいいなも知っていた。しかし、詳しい会話内容まではちょっと聞き取りづらい。
（やはりこの雨は辛いのぉ。それでも、少しでも仇敵草薙の弱点を探るのじゃ！）
と、いいなは分かる範囲で龍八の行動や彼らの会話内容を生徒手帳にメモしていくのだった。
　因みに蛇足ではあるが、いいなの姿は僅かに見えた頭の所為で龍八に気づかれていた事を付け加えておく。彼はそんないいなの姿に、僅かに口元を綻ばせた。

（……雨の日か。何だか、幽霊を思い出すね。でも、今回は違うみたいだ）
　件の幽霊少女の事を思い出した逆巻天野は眼鏡の奥で瞳を細め、降り続く雨を見つめる。噂の少年は、こんな日に現れて人を助ける。そして、知人である拳児が遭遇した、と知り、話を聞こうと彼を探している所だった。
「それにしても、噂の喧嘩に強い謎の男か……」
　例の少年は、戦わずして不良を怯ませているという。そこから、戦わずして勝てるのか、その強さが気になっていた。天野も男であり、なにより、近頃事件に遭遇していく中で、強くなりたいという思いが高まったのもあった。
「この辺りにいるかな……？」
　そう思って探していると、レインコート姿の少年を目撃する。よく見ると猫鳴館に頻繁に出入りしているいいなだった。
「何してるの？」
「！？　逆巻殿、しーっ、なのじゃ」
　急に声をかけられちょっと驚くいいなであったが心拍数はそんなに上がらなかったので内心安堵する。そんな事を知ってか知らずか、天野はいつもの飄々とした調子で彼女の視線の先を見ると……探していた人物を発見する。
（なんだろ、妙に嫌な予感）
　天野はぽりぽりとこめかみを掻きながら彼らの様子を見る事にした。

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謎の少年は、雨と共に……？

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