ラブ☆部活＆同好会～文化部の春～｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会～文化部の春～

●ミステリ研究会：事件編

　神野美野梨が校長室の前を通りかかった時、一匹の猫が部屋のなかでじゃれ回っているのが見えた。なにげなく観察していると、猫はダンボール箱に飛び乗り、蓋をずらそうとしている。
「イタズラしちゃ駄目よ」
　美野梨は校長室に入って猫を止めようとした。部屋のなかには誰もおらず、代わりにたくさんのダンボール箱が散らばっている。校長が誤発注した大量注文してしまった、お菓子入りのダンボール箱だ。
　猫に近づき、そっと抱き上げる美野梨。そのとき彼女は思いがけない物を発見した。
「ど……どういうことなの！？」
「なにか事件でも起きたのかしら、美野梨」
　声をかけたのはブリジット・アーチャーだ。猫を抱えたまま後ずさる美野梨を見かけ、不審に思ったブリジットもまた校長室に入ってくる。
　優雅な足取りで近づくブリジットを振り返って、美野梨は言った。
「ブリジットさん。箱の中を見てみて」
「こ、これは……」
　ブリジットは絶句した。それもそのはずである。
　なぜなら、お菓子が入っているはずのダンボール箱には、大量の『ちくわ』が詰め込まれていたのだ。

（やー、ボクだって驚いたよ）
　ミステリ研究会の部室に向かいながら、新井すばるは肩をすくめていた。
　校長が誤発注したお菓子にミステリ臭を感じた彼は、いちはやく件の箱を開けていた。そして大量のちくわが詰められていることを知り、不本意ながらも撤退してきたのである。
（そりゃそうだよね。部対抗のすごろく大会の景品が忽然と消えて、代わりにちくわが出てきたとしたら……）
　パイプを吸うようにして、実家である魚屋のオリジナル商品【寝子島ちくわ】をくわえながら、すばるは思う。
　ちくわ＝すばるで冤罪決定。ボクは寝子高裁判行きだ、と。
　しかし、ちくわをくわえるすばるは、どこか不敵な笑みを浮かべていた。現場をすばやく検証した際に、いくつかの重要な証拠を調べていたのである。
　箱の宛名が剥がされていたこと。謎の署名と挑戦状。それに、銀色の髪の毛……。
「彼女らなら見逃すまい」
　すばるはミス研メンバーの推理力を信頼し、悠々と部室に入っていった。

☆ ☆ ☆

「……他の箱はすべて空になってるわ」
　全部のダンボール箱を調べ終えて、美野梨が言った。
「やはり、お菓子泥棒の犯人は――」ブリジットは自分のこめかみを指でとんとんと叩いた。「新井すばるね」
　ちくわといえば、新井すばる。新井すばるといえば、ちくわ。
　これはもう常識である。疑いの余地はなく、当然の帰結だった。普通に考えれば犯人は新井すばるで確定だ。
「――と、思わせて。真犯人は他にいる」
　校長室を見まわしながら、ブリジットは言葉を継いだ。
「すばるのアリバイから考えて、これだけ大量の空箱を用意できるとは思えないわ」
「そうね。それにこのちくわ……スーパーで売ってる量販品よ」
「でかしたわ美野梨。これで、すばるの容疑は晴れた。だって彼なら自分の店のちくわを使うはずだもの」
「これは新井くんに罪を着せようとしたミスリード」
　美野梨はそう言って、箱の裏についていた一枚のカードを取り外した。うすい銀色をしていて、上品な紙質。
「真犯人は、この挑戦状に署名してある“Ｍ．Ｒ”ね」
「挑戦状？」
　ブリジットは、美野梨からカードを受け取った。表には次のような文面が記されている。

『菓子は頂いた。君たちが私のもとにたどり着けることを祈る。　Ｍ．Ｒ．』

「……モ、モリィ……モリアーティ！？」
　ブリジットの凛々しい碧眼が、ぎりっと吊り上がった。
「犯罪王気取りで私たちに挑戦しようなんて生意気ね。でも、挑戦されて逃げる私たちじゃないわよ！」
「ええ。とても興味深いわ。受けて立ちましょう」
　美野梨はいちど首を縦に振った後、ゆっくりと斜めに傾げた。

「……でも、モリアーティ教授なら“Ｊ．Ｍ”じゃないのかしら？」

このページにイラストを設定する