小人さんがゴーゴー｜リアクション

小人さんがゴーゴー

　桜花寮の一室、全開にした窓からパジャマ姿の雨寺凛が身を乗り出す。
「良い天気だなぁ。お買い物でも行こうかな！」
　明るい笑顔で部屋に引っ込む。急いで着替えを始めて五分後には早々と部屋を飛び出した。
　歩道に立ち、方々に目を向ける。
「最初は、こっちだね！」
　明るい声で一方を指差す。いつもと変わらない活発な様子は服装にも表れていた。オレンジのシャツに白いパーカーを合わせていた。伸縮性のある青いジーンズと赤いスニーカーで弾むように歩き出した。

　カーテンで閉め切られた部屋は一切の朝陽を受け付けず、まるで夜のようであった。
　工藤来夢は作業用の椅子に座っていた。上体を机に被せるような格好でシャープペンシルを走らせる。連載用の漫画の構想を書き出していく。簡単なデッサンも加えた。
「……悪くはないけど、良くもないわね」
　手が止まる。トントンとペン先で紙を突く。前奏のように調子を取る。硬い表情が徐々に柔らかくなっていった。
「アイデアに困った時は散歩が一番！」
　勢いよく顔を上げた。少しずれた眼鏡を苦笑で正し、いそいそと机を離れた。手早く黒のパンツスーツに身を包んで胸を張る。
「うん、良い感じ！」
　出掛ける前に机に寄って手帳とデジカメをポケットに収めた。
「張り切っていくわよ！」
　長い前髪を掻き上げてにっこりと笑う。
　大きな一歩で来夢は夜の部屋を後にした。

　九夜山の裾野、柔らかい下草を敷布団にして五代拓哉が仰向けに眠っていた。繁った葉の合間から光が幾本も射し込む。
　何の前触れもなく、拓哉は目を開けた。誰かに引き起こされたかのように上体を起こす。眠そうな目で辺りを見回した。
　何の変哲もない木々が生えていた。瞬きの回数が多くなり、跳び上がるようにして立ち上がった。
　その場で激しい足踏みを始める。チェック柄のシャツに付いた小枝や枯れ葉を振るい落とす。最後にカーゴパンツの膝の一部を手で払った。
　晴れ晴れしい顔を上に向ける。葉の間から青い空が覗いていた。
「なんか面白そうな予感がする！」
　大きな声を上げて緩やかな斜面を駆け降りる。うねる根を軽々と跳び越えた。夢中で手足を動かして明るい世界に飛び出していった。