小人さんがゴーゴー｜リアクション

小人さんがゴーゴー

　日曜日、星ヶ丘寮は穏やかな朝を迎えていた。どこかのんびりとした時間が流れている。
　椿美咲紀は早々に朝食を済ませた。自室に戻ると運動部を思わせるジャージに着替えた。
「今日こそ、寝子高新聞の記事を書くのです！」
　窓越しの青空に向かって全力の伸びをする。くるりと向きを変えて机に向かった。引き出しから山のような資料を取り出し、パソコンを起動させる。
　その合間に資料に目を通す。ふむふむ、と頷きながら走り書きのような文字を読み込んでいく。
　パソコンの用意が出来た。マウスを握り、手早く文章作成ツールを動かす。設定した書式通りの画面が表示された。
「これからが本番なのです！」
　所定の位置に指を添えた。ぴたりと動きが止まる。白い画面を見詰める。少し顔を近づけた。眉間に薄っすらと皺が寄る。右手が側頭部を掻いた。
「画像を見るのです！」
　画像フォルダーを開いた。色取り取りのチューリップが収められていた。黄色い花は菜の花でふかふかの絨毯を思わせる。アイスランドポピーは大きな花を見せ付けた。
「いいですねぇ」
　頭の中では春の花々が咲き乱れた。九夜山で開催されたフラワーイベントの思い出に浸る。
　うっとりとした目を急に見開く。頭をブンブンと振って文章作成画面に戻した。
「時間を無駄に出来ないのです！」
　猛烈な速さで指を動かした。キーに思いを叩き付ける。前のめりとなって画面を睨んで文字を打ち続けた。
　指が止まった。目が文章を読んでいく。歯軋りをさせた。唸るような声は不満に塗れていた。
　美咲紀は顔を上げた。片方の掌で顔を覆う。人差し指が額の辺りを軽くノックした。
「何か、違う……そーいうことを書きたいんじゃなくて、もっと自然に根差した花々の素晴らしさを伝えられるような、そんな言葉が欲しいのですよ」
　書いた文章の一部を消した。考えながら付け足す。また消した。
「あぁん、どうしても上手く書けない！」
　大きく仰け反って舌打ちをした。鼻筋に微かに皺が入る。日頃では考えられないくらいの苛立ちに襲われていた。
　止まる手とは反対に足が小刻みに動き出す。酷い貧乏揺すりは身体全体に及ぶ。
「イライラするのです！」
　怒鳴ったことで少し気分が紛れたのか。再び画面と向き合う。指を動かしては止めて文章を読み込む。
「……まだ、何か違うのです」
　止まりがちな指で愚痴を零す。目はガジェットの時計を見た。書き始めて、それなりの時間が過ぎていた。怒りで頬が震える。
「落ち着くのです。スランプは誰にでもあるのです。ひっひっふぅーの精神で乗り切るのですよ」
　自身の言葉で慰める。呼吸を整え、意識して口角を上げた。しかし、十数行の文章を目にした途端、怒りは爆発した。
「イライラがマックスなのです！」
　指を滅茶苦茶に動かした。アルファベットと平仮名が混在した意味のない物を大量に打ち込んだ。頁を跨いで延々と続いて四頁の半ばで力尽きた。
　にっこりと微笑んだ美咲紀は意味のない羅列を速やかに消した。書き上がったところまでを保存して息を吐く。
「全くすっきりしないのです」
　笑顔で言い切った。身体を解すような運動を経て作業に戻っていった。

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