海神の島にて｜リアクション

海神の島にて

「お、おお……。いつの間にか夜になっていたのだ」
「今日もあっという間でしたねー」

　あれからオーブンでコーギー……の形につくられた粘土が焼かれたり、夕飯にしていたら、もうすっかり日は落ちて月が空に輝き始めた。小麗が顔を上げると、キラキラと輝く星が見える。夜風にあたりにきた五月もそこに鉢合わせて、二人で星を眺めた。五月は寝袋の中で、小麗は寝袋の外で。

「はっ！！　今度はなんだ？！」
「あ、星が流れて……落ちてきました？」
「星か……っ！！　そういえば昨日も降ってきたのだ」
　昨日の、星のさくさくと転がる白砂の様子を思い出しながら、小麗は振り続ける星を見た。

「……これ、お土産にするとダメですかね？」
「お好きにどうぞ」

　ころころ、ころころ。星は転がる。口に含むと、ほんのりと甘い味がした。五月の、誰にとも宛てたわけではない問いに、どこかから、天からだろうか。声が降ってきたような気がした。

「なら小麗もじいじとばあばへのお土産にしたいのだ」
「ふっふ、いいですね。私も妹に見せてあげたいです」
「じゃあ五月にもこれ、瓶なのだ！」

　寝袋の中、幾つかの星を手の中で転がしている五月に、小麗は空きビンを手渡した。昨日、入れ物がないといって海神に願ったものだ。朝届けられた小麗宛の木箱には、余るほどのビンが入っていた。五月に渡しているのは、そのひとつ。

「ではありがたくいただきます」
「どういたしましてなのだっ」

　手に収まるだけ、いっぱいに、二人は降ってくる星をキャッチしては、瓶の中へ詰める、積める。その合間合間に、少しだけ自分もとつまみ食い。二人の、家族への優しさに呼応したのか、星は先程よりも優しく甘く、さくさくと口の中で解けた。
　ころり、ころり。きゅっと蓋の閉められた瓶いっぱいに詰まった星が、落ちたにもかかわらず脈打つようにキラキラと輝いて明滅する。受け取った家族の顔を楽しみにしながら、ほろりほろりと五月と小麗は眠りについた。

「……星が金平糖に？」

　五月と小麗が星を集める、そのまた別の場所で。星をかりっと齧ってみて、楓子は驚いた。皆が星を取っては食べ、取っては食べしているのを見て、楓子も真似せずにいられなかったのだが――口の中に金平糖のような甘味が広がることに目を丸くする。

「……綺麗だな」

　手の中で蛍のように光ってみせる星を楓子は転がし転がし、食べる。
　――美味しい。

「……美味しい」

　楓子は、この島に来てから何度目かわからない、素直な感情をそのまま口に出した。
　かりり、かりり。星が砕ける。

「……不思議なこともあるものね」

　葉月もまた、星を食べる。かりり、ほろり。森にあった綺麗な水晶を思い出させる、不思議な食感。あの水晶のようにひんやりとはしないけれど、その代わりどことなく優しい甘さが広がる。そうしながら、夜空に煌めく満天の星を見上げる。

「……結果はどうかな」

　――……たぶんきっと、見覚えのない星空なのだろうと思うけど。
　見覚えのある星座がないか、一つ一つ、指でなぞり乍ら確かめるように、見る。しかしやはり、そこに葉月に覚えのある星座は見えない。その代わり、子供の思い描くような、わけのわからない動物や車のような――そんな形は描き出せた。その星座の合間を、流れ星がきらりと落ちる。

「願い事をしながら星を食べたら、その願いを神様は聞いてくれるかしら？」

　そんなことを言いながら、葉月はまた星を齧った。