海神の島にて｜リアクション

海神の島にて

「……む。アルパカがいる」

　森を進んだ楓子は道を横断するアルパカの群れに出会った。ふわふわとした、真夏のこの島においては暑そうに見える厚い毛からはどこか甘い香りがする。その毛並みは所々欠けていて、何かに毟られたようにも見える。

「まさかこの毛も食べられるんだろうか」

　と言っていると、通りがかったポニーテールの少女がその旨を返した。

「ふむ」

　楓子は好奇心のまま、アルパカの毛を取って食べてみる。ふんわりと砂糖の味がする。いや、これはわたあめだ。どうなっているのかはわからないが、ふわふわとわたあめの毛を生やしたアルパカはじっと楓子を見ている。

「美味しい」

　その声に、アルパカが嬉しそうに鳴いた。

「ふっふ。今日も快晴でなによりです」

　寝袋からごそごそと出た薄野五月は、燦々と照る日を身体に浴びて伸びをした。さっさと行ってしまった海神へのお礼を便箋に認めて流したら、後はまた島の探検である。五月はささっと森に入ると、木の合間にふわふわの毛が覗いたのを見て、そのメガネの奥の瞳を細めた。暫し経ち、毛が動くと露わになるのは――アルパカの顔だ。

「この島にもアルパカがいるのですか」

　嬉しそうに目を輝かせて、がさごそと草木を掻き分け掻き分け、なんとかアルパカのもとに辿り着いた五月は、その目の前に広がる光景にさらに目を丸くした。アルパカがもこりもこりと群れを成して森を歩いている。その毛を摘んで、食べる少女一人。楓子だ。

「何をしてるんですか？」
「アルパカの毛を食べてる」

　抜けばすぐ生える魔法の毛玉を、楓子はむしりむしり、食べている。五月は毛を毟られているというのに安らかというか、むしろ嬉しそうなアルパカの表情と、初日に島を廻ったおかげで得た慣れのもと、おそるおそる、自らもその毛並みをちょっとだけ頂いた。

「わたあめの味がする」
「ほほー、すごいですね」

　もう一口だけ……と、手を動かしては、無限に生えてくる綿あめをもこりもこりと口へ口へ。

「……少し可哀想になってきた」
「ですね……」

　しかし少々罪悪感も湧いてきたようで、楓子と五月は途中で手を止めた。

「五月氏はなにか面白い物見つけたか？」
「ふっふ、あっちにパンがいっぱいなっているのを見かけましたよ」

　まるで絵本みたいで可愛らしいですね、と言って、五月はまたふっふと笑う。楓子もつられて口許を綻ばせた。

「ひんやりしたものはないか？　アイスとか」
「探してみましょうー」

　と、ごそごそ、がさりがさり。飴細工のような葉を掻き分けて、森を進む。時折五月はひょいひょいと木に登っては、高所の木の実を取って楓子と共に食べた。

「あれでしょうか」
「あれだな」

　森を進む、その中で、二人はついにアイスの花咲く場所を発見した。感激と共に手で掬って、食べてみる。バニラの香りと、冷える唇。口の熱でとろりと溶けるそれは紛れもなくアイスだ。二人はアイスの群生地に入ったのだ。高く繁る緑のお陰で、どことなく他の場所と違ってひんやりとしている。冷えたアイスは木陰でてろてろと咲いていた。

「うん、美味しい」
「この島は驚きでいっぱいですね。ふっふ」

　暫し経ち、満腹のままころりと転がって、二人は心地よい木漏れ日の中、うつらうつらと微睡む。その空間は、ゆったりとした時間が流れていた。