海神の島にて｜リアクション

海神の島にて

　ぱちり。目が覚めて、五月はむくりと起き上がった。そして、ぱっぱと木の葉を払って立ち上がる。隣にいた楓子は既にどこかに行ったようだ。さてどうしようと、くるくる辺りを見回しながらまた森の奥深く、進んでいくと。

「……はっ！　ごめんなさいなのだ！　残しておくのだ！」
「構いませんよー。ふっふ」

　胡麻団子が葡萄のように生えている地帯に、小麗がもくもくぱくぱくと口を動かしながら佇んでいた。頬袋のようにぷっくりと胡麻団子で膨れた可愛い頬っぺたに、五月はにこりと口許が緩む。

「でも、少し取らせて頂きましょう」
「どうぞどうぞ」

　そう言うと、五月はパーカーのポケットに胡麻団子をたっぷり詰め込んだ。初日もこうして木の実を詰め込んで、休憩時間にみんなと食べたものだ。そういえばあの陶芸家のお兄さんは、今どうしているだろう？　五月はふとそう思った。

「そろそろ、海岸に戻るのだ。五月はどうするのだ？」
「それじゃあ私もご一緒しましょう」

　もちもちの胡麻団子を飲み込んで、二人は並んで森を出た。

「あ、戻ってきました」
「おかえりなさいー」
「どうでしたか？」

　わらわらと、海辺に出た五月と小麗を、ウミコーギーが取り囲んだ。朝に見た切りだったウミコーギーに対して、小麗と五月はしゃがみ込んで目線を合わせる。

「楽しかったですよ、ふっふ」
「島の食べ物、くちにあえばいいんですけど」
「美味しかったのだ！」
「ならよかったです」

　くぅーんと声を揃えてウミコーギーが鳴いた。小麗はその一匹に手を伸ばし、目いっぱいもふりもふりと撫でまわすと、

「また海神様にワガママ言われてないか？」

　と訊いた。ウミコーギーは、撫でられて心地よさそうにまたひと鳴きして、

「だいじょうぶです」
「船にぎゅうぎゅうはまいっちゃいましたけど」
「海神様も最近はおとなしいですよ」

　と口をそろえて言った。

「なら、よかったのだ！」

　小麗はその答えに安堵の息を吐き、またコーギーをわしゃわしゃと撫でまわす。暫しそうやって撫でまわしていると、ふとウミコーギーの背後から気配がする。小麗と五月はウミコーギーを撫でまわす手を止め、顔を上げた。

　清潔な、ぱりっとした白いシャツを着た長身の、しかしどこかのんびりとした表情の男性――志波甲斐斗が立っている。わうわうとコーギーがまた吠える。

「あ、甲斐斗さん」
「ワカメの置物つくれましたか」
「ちょうどひと段落したところです」
「みにいっていいですか」

　かくり。頷いた甲斐斗の後ろを、ウミコーギーが列をなして歩く。

「むむっ！　小麗も見に行くのだ！」

　小麗もその後をぴょんぴょこ、ついて行く。

　海の良く見える、見晴らしのいい丘の上に甲斐斗の作業場はあった。喋るワカメがけたたましく喋っているのが聞こえる。奇妙な光景を囲むように海、魚、星、花……島で見える美しいそれらを模った置物やレリーフ、アクセサリーが置かれていた。小麗とウミコーギーはそのひとつひとつにふおお……と声を上げたのち、甲斐斗を見た。

「……コーギーさん、一匹でいいので、そちらに立っていただけますか」

　甲斐斗が手で指し示した方に、ウミコーギーが立つ。短い足でえっちらおっちら、歩いては着いたとたんくるりと振り向く。甲斐斗はウミコーギーをじっと観察したのち、海岸からここまで運んできた木箱からオーブン粘土を取りだした。

「よし、何を作っているか当ててみるのだ」
「さて……何でしょう？」

　粘土は甲斐斗の手でこねこねとこねられて、楕円型に成形されて、前足が作られ始める。小麗は甲斐斗の手つきと、じっと待っているコーギー、交互に見てはうんうん唸って、ようやっとぴこんと、光明が差したようで、言った。

「……わかった！　オットセイなのだ！」
「ふふ、完成してのお楽しみということで、どうでしょう」
「むむ、違うのか……？」

　その後もまた、うーんと唸って、小麗は考えに考える。

「少し休憩にしましょう」

　チョコレートや簡単なサンドイッチ、お茶が振舞われて、小休止。

「……わかりそうですか」
「も、もう少しでわかる気がするのだ！」

　こねこね。

「わかった！　……ダックスフント！」
「惜しいですね……」
「僕たち分かった気がします」

　わうわう。ウミコーギーが鳴く。午後の日が水平線に向かってどんどん傾いていく中、出来上がったのはコーギーの置物だった。

「くあぁっ……！　コーギーだったとは……」
「……さて、夜になる前に焼きに行きましょうか」

　小屋への道を、二人とウミコーギーは急いだ。

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海神の島にて

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