あやかし大戦争｜リアクション

あやかし大戦争

■人妖闘争伝・終の巻
　勝利にわく人類軍。
　妖たちは土地を捨てて撤退し、あたりは互いをたたえ合う声に満ちていた。
「皆、やったわね！」
　そんな中に現われたのは、両手でばんざいしながら駆け寄ってくる妖であった。
　なにやつ、と剣に手をかける御剣刀。
　きゃあと言って飛び退いた妖は、顔をぺたぺた触ってから自らの変化を解いた。
「待って待って、私よ！」
　かくして正体を現わしたのは青山絢だった。
　彼女の手を取って上下に振る椿美咲紀。
「あなたが妖軍に潜入していたという妖術師ですね！　お手柄です！」
「おてがら？」
「然様」
　尾鎌蛇那伊は腕組みをして頷いた。
　ごろんと転がる巨大な首を指さしてみせる。
「首魁の情報を見事に伝えたではないか」
「……ん？」
　絢が首を傾げている。
「私がやったのは、捕虜の解放だけよ？　首魁の情報を伝えたのは、虚さんじゃないかしら。知らない？　もう一人潜入していた人がいたんだけど」
　刀、美咲紀、蛇那伊は顔を見合わせ。
　そして同時に述べた。
「そんな奴は知らん」

　人類軍の食料庫を襲う作戦に失敗した旅鴉月詠はその任を解かれ、配下の妖たちもろとも土地を追放されていた。
　……かに見せかけて、月詠は秘密裏に妖軍の内部を探っていた。
「徹底して秘密にしていた作戦が人類側に知られ、尚且つ軍勢をもって潰されるなんて出来すぎている」
　妖軍の将軍が密会の約束をしていた場所をおさえた月詠は、物陰に隠れてこっそりと現場を観察していた。
「内通者がいるはずだ。それも、戦争を好む何者かが」
「それは、私のことでしょうか？」
　耳元で声がした。
　素早く飛び退き、鉄針を放つ。
　対して相手は指二つで鉄針を止めると、『くふふ』と笑った。
　その特徴的な笑い。感情をさかなでるような語り方。
「きみは妖だったのか。人類軍の将、明智……いや」
「アケーチ・タッマーキ！」
　ばさりと黒い翼を広げるアケーチ。
　と共に、周囲の闇から無数のコウモリが現われ、月詠へと襲いかかる。
「戦争は終わっておりません。終わらせてはなりません。こんなにも素敵な宴を終わらせるなんて、ふふふふふ！」
　どこからともなく鉄扇を取り出し、口元を覆う。
「悲鳴、血飛沫、炎。ああ、戦のなんと美しいことか」
　月詠は風をおこしてコウモリをはねのけると、その場から飛翔した。
「戦争をするために戦争をするなんて……狂ってるよ。そんなことのために仲間を殺して去らしたっていうのか。ねえ――悪食！」
　振り返れば、樹木の上に足を組んで座る常闇虚の姿があった。
　いや、虚は人類軍に紛れたかりそめの姿。
　その正体は、魑魅魍魎の長……悪食である。
　黒い狐の耳と尾をつけた虚は、扇子を開いてぱたぱたとあおぎはじめた。
「あは。気づかないかしら？　戦の中に渦巻く怨嗟が、憎しみが、甘美な死が。戦はまだ終わらせないわ。もっともっと殺して、もっともっと晒すのよ。人も妖も無差別に……」
　小指で唇をなぞる。
「貪り食って、あげる」

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