土掘り妖精の宝物～或いは、貴方の為の埋蔵品～｜リアクション

土掘り妖精の宝物～或いは、貴方の為の埋蔵品～

　住み込みで働いている工房を訪れたお客から、志波甲斐斗はその噂を聞いた。
　心を込め、丁重にお客の相手を終えた後で、甲斐斗は「ふむ」と顎に手を遣る。
（噂話、と聞き流すにしては具体的ですね）
　おかしなことに縁のある寝子島ならば、妖精が生む奇跡も本当に起こりそうだ。
　それに、噂が嘘だったとしても、話のたねにはなるだろう。
「……面白そうですし、試してみましょうか」
　一体何が出てくるのでしょう？　と、甲斐斗は、夜の訪れが待ち遠しいような気持ちになったのだった。
　そして、その日の深夜。
　静かに工房を出た甲斐斗は、その手にジャムの小瓶とクッキーを携えていた。
　土ならば、山の方がいいでしょうか？　と、向かったのは九夜山の麓だ。
　そうして甲斐斗は、ここなら、という場所を見い出した。
　しゃがみ込んで甘味達を供え、噂に聞いたお願いの言葉を唱える。
「宝物をお返しください」
　柔らかな声で言い終えると、甲斐斗は手で、そっと土をかき始めた。
「さて、僕の元には何が帰ってくるのでしょうか？」
　なんて、幾らか胸を弾ませながら、丁寧に。やがて。
「……おや？」
　不意に、指の先が硬くてひんやりとしたものに触れた。
　傷つけないように気を配りながら、優しい手つきでそれを取り出す。
　じきに甲斐斗の手の中に収まったのは、葉っぱを模った陶器の皿だった。
「これは……ええ、よく覚えています」
　糸のような目が、益々以って細められる。
　それは、甲斐斗が初めて陶芸に触れた時に拵えた作品だった。いや、
「作品、と呼ぶのはおこがましいでしょうか」
　手の中の物を甲斐斗が生み出したのは、まだ中学校に通っていた時分だ。
　陶芸体験で作った葉っぱの皿は、今の甲斐斗の目から見れば、歪で稚拙な品だった。けれど。

（思えば、これがいまの僕の始まりだったのでしょう）
　必要以上に厚みがある。模様も、竹串で葉脈をなぞっただけだ。
　月の明かりだけが頼りの暗がりの中でも、料理の盛り付けにも向かないだろうことだってよくよくわかる。
　それなのに手に取ったそれは、甲斐斗の口元を、自然と綻ばせるのだった。
（いつの間にかどこに行ったのかわからなくなって、こうして手に取るまで存在すらも忘れていましたが……）
　今こうやって再び出会い、触れていると、感慨のようなものが胸に満ち満ちた。
　甲斐斗は、器を大切に胸に抱える。
「今度こそ、なくさないよう……初心を忘れないよう、きちんとした場所に納めておきましょう」
　そうだ、今の自分が同じモチーフで作品を作ったらどうなるだろうか？
　それを試してみるのも面白そうだと、お世辞にもつるりとはしていない感触に思う。
　立ち上がって、甲斐斗はぐるりと辺りを見回した。
　どこにいるのかわからない土掘り妖精に、御礼の言葉を伝えたかったから。
「大事なものを返してくださり、ありがとうございます」
　静けさを破らない程度に声を張って、甲斐斗は元来た道を辿り始めた。
　行きとは違う重みと、じんわりとした胸の温もりを携えて、心なしか弾む足取りで。

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