土掘り妖精の宝物～或いは、貴方の為の埋蔵品～｜リアクション

土掘り妖精の宝物～或いは、貴方の為の埋蔵品～

　ミーツェ・Ｍ・フェリスは、金色の双眸で辺りを見回した。
　ミディアムショートの黒髪が、ふわりと揺れる。
「今日の『ねこじま』は真夜中ですな……でも、ちょうどいいですな」
　ミーツェの金色の瞳が、ぴかっと煌めいた。
　だってミーツェは今日、土掘り妖精の噂を確かめに来たのだ。
　星幽塔から、お菓子だってちゃんと持ってきてある。

「早速、ミーツェも試すのですなー！」
　具合のいい場所を見つけるや、ミーツェはしゃがみ込んでお菓子を供えた。
　気に入ってくれますかな？　なんて、ちょっとそわそわしながら。
「妖精さん、妖精さん、宝物をお返しください……ですなー！」
　お願いの言葉を唱えて、よいしょと土を掘る。
　するとじきに、土の中からちらちらと光の欠片が覗いた。
「うなー？　これは……」
　さくさくと掘り出した、それは。
「光の塊……ですな？」
　ことりと首を傾けた途端、光はミーツェの手のひらの中へと吸い込まれていく。
　途端――頭の中に、ある情景が浮かんだ。

　ざあざあ、ざあざあと、雨が降っている。
　その音に混じって《誰か》の吐息が聞こえる、水の中を懸命に走る音が跳ねる。
　雨に濡れた布に包まれて、胸の上に、青い玉を添えられて。
　三毛の子猫は、《誰か》に抱かれた状態で、その音を聞いていた。
　雨の重みで、ふと、子猫を包む布がずれる。
　子猫の目に、外の様子がちらと映った。
　そこは、大雨が降りしきる、夜の森の中だった。
　見上げれば、そこに見えるのは《誰か》――子猫の飼い主の顔。
　長い金の髪が、白い肌が、服が、ぐっしょりと雨に濡れてしまっている。
　高貴な印象を与える若く美しい女性は、子猫を大事に抱えて懸命に走っていた。
　と、その時だ。
　子猫の耳に、遠く雨の向こう側から、怨嗟の声が、怒号が聞こえた。
　――猫は全て悪……の僕だ。
　――……魔の使いを匿……奴も悪……の僕だ。
　――見つけ出せ、罰せよ、悪……の僕どもを……せ！
　雨に紛れて全ては聞き取れないその声達の、しかしその響きは険呑だ。
　けれど、息を切らせて走る女性の必死に願う声は、子猫を負の感情の海から掬い取るようだった。
『私はどうなってもいい』
『どうか、この子は……末永く……！』

　気が付けば、ミーツェは真夜中の寝子島でぼろぼろと泣いていた。
「そうでしたにゃ……彼女のおかげで……」
　ミーツェはあの女性がいたから、彼女と共に、生きて星幽塔に迷い込めたのだ。
　ミーツェも女性もほしびととなり、女性は数十年を幸せに生き、天寿を全うした。
（真っ暗な中で怖い声がする夢を見て泣いた時、ただの夢だから大丈夫よ、って慰めてくれた……）
　思えば、あれは今思い出した、あの時の怨嗟、あの時の怒号だったのだ。
　女性が天寿を全うしてから百年以上を星幽塔で過ごす中で忘れてしまった、塔に来る直前の記憶。
　土掘り妖精は、ミーツェに大切なことを思い出させてくれた。
「妖精さん、ありがとうですにゃ……感謝しますなー」
　またお菓子とか贈りたいですな！　と、ミーツェは目元をそっと和らげたのだった。

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