難攻不落、ＤＩＹ魔王城！｜リアクション

難攻不落、ＤＩＹ魔王城！

■タビガラス商事へご用の際は
　雷鳴とどろく暗黒の村。
　人々は窓深くに引きこもり、来訪者にはのぞくような視線が刺さる。
「気味悪い村だぜ」
「魔王の支配下にあるんだ。無理もない」
　そんな村に訪れた三人の男たち。
　先頭をゆく男には勇者自慢の魔王絶対殺す剣。その左右にはビキニアーマーの戦士たち。
　見上げるは、魔王の城。

　五階建てプラス地下一階建てのこちらの建物は六本木タビガラスビル。
　最上階の社長室では旅鴉月詠がワイングラスをくるくるやりながらネコを撫でていた。
「魔王様、アポをとっていない勇者が社長に会わせろと言っておりますが……」
　スマホをしまった秘書の言葉に、月詠は視線だけをやった。
「は、ただちに通報いたします」
　てきぱきと仕事をこなす秘書を背に、ワイングラスの中身（ぶどうサイダー）をくいっとやる月詠。が、はたと何かに気づいて秘書を呼び止めた。
「例の新商品はどうなってる」
「検証実験前ですが……お使いに？」
「実用に勝る試験はない」
　ピッと指を立てる月詠に、秘書は通話中の電話をきって別の所へと連絡をとりはじめた。

　テレレテッテテー。
『コノエレベーターニノリタクバナゾナゾニコタエヨ』
　ダブルバイセップスポーズのゴーレムが『パンハパンデモジュウヨンセイキニ……』とか言ってる横を素通りしていく勇者と戦士。
「謎解きなど無用。筋肉こそが突破の要。そうだな、ボブアンドサムソン！」
「「イエス！」」
　ビキニアーマーを着たスキンヘッドの黒人男性が、２ｍ級のボディから左右の大胸筋を交互にアピールし始めた。
　冒頭の『男たち』は誤字ではなかったのだ。誤字であってほしかった。
　チーンという音と共に開いた最上階への道。
　そこは……。
「迷宮か。それに、早速の宝箱」
　勇者はどれどれと言って宝箱を開けると、なんかそれっぽい仕掛けによってクラクラするガスが散布された。
「「アイエーッ！？」」
　古典的な悲鳴を上げてくらくらする勇者たち。その機に乗じてスプリント係長とかいう魔物が素早く回復アイテムをスリとっていく。
　その直後に通路の先から岩が転がってくるわ落とし穴が開くわで、気づいた頃には戦士の……えっと名前、あの、最初右にいた奴が『マイガーッ』とか言いながらダストシュートに落ちていった。
　その後もテンタクル課長やポイズン部長やイリュージョン専務がことどごく罠を仕掛け、最後の最後には勇者一人になっていた。
「来い勇者よ、実は俺はあと一回刺しただけで死ぬぞ！」
「死ねーい！」
「グワーッ！」
　魔王っぽい敵を倒したと思ったらそいつはなんとカゲムシャ副社長。
「まだまだ甘い。出直してきなー」
　月詠がくいっとひもを引っ張ると、勇者の足下に穴が空いて彼もまたダストシュートされていった。

「うん、まだまだ改良の余地があるな」
　実験記録を読みながらうなる月詠。秘書がそっとやってきて、書類を差し出した。
「社長、六本木村から今月の納品についてです」
「ごくろう」
　月詠はさらっとサインしてから、時計を見上げた。
「そろそろ定時だね。残業は身体に毒だよ、お疲れ様」