難攻不落、ＤＩＹ魔王城！｜リアクション

難攻不落、ＤＩＹ魔王城！

■仁義最後の砦（ラストワン）
　悪党ですら近づかぬ呪われし岩窟の奥深く。
　広大な地下空間にあったのは、人知れぬ魔王の城であった。
　この世の果てとも思えるその城を訪れる者は、この世で一握りのみ。
　それは……。

「魔王様、ご報告がございます」
　全身甲冑の男が跪く。
　玉座の上で足を組んだ七峯亨は、林檎の果実をかじり、視線だけをやった。
「侵略者です」
「数は」
「人間の勇者が一人。護衛の戦士が二人」
　沈黙する亨。
　同じく沈黙する部下たち。
　闇から姿を現わした無数のシルエットが、我に我にとプレッシャーをかけていく。
「いかように？」
「はっ」
　亨は皮肉げに笑うと、手にした果実を握りつぶした。
　腕に垂れた果汁を舐めとって立ち上がる。
「いつものように歓迎しろ。それと、俺の道着を持ってこい」

　勇者一行を待ち受けたのは千の階段であった。
　ただの階段である。しかし勇者一行には一寸ほどの大きさまで縮小される呪いがかけられ、一段ごとに９０度のクライミングを要求した。凹凸なしの絶壁である。それを乗り越える体力なくして、第一の間にすらたどり着けないのだ。
　しかしそこは勇者一行。
　体力を残して第一の間へとたどり着いた。
　しかしそこに待っていたのは、人間や魔物が入り交じった混成モンスタールームである。
「確実に、念入りに潰せ。興に乗っても構わんが、死ぬなよ」
　道着姿で板間に座り、水晶ごしに命令を送る亨。
　映像の勇者たちは、巨大な敵にも臆すること無く挑みかかり、そして次々に散っていった。
　瞑目し、座して待つ。

　かくして扉は開かれる。
「戦士たちは死んだか」
　道場へと入った勇者は、縮小化の呪いが解けていた。
　体中ボロボロではあるが、堂々と座した亨の姿にしっかりと構えてみせる。
「この扉は強い者にのみ開かれる。強さを求め世から外れた者たちのいきつく先がここだからだ。勇者、一度だけ聞くぞ」
　ゆっくりと立ち上がり、亨は拳を構えた。
「帰るなら今だ。かかってくるなら、命の保証はしないぜ」
　無論。勇者はそうとだけ言って、冴え渡る剣で斬りかかった。
　亨はその剣を正面から拳で粉砕し、第二の拳で勇者の腹を打った。
　膝を突き、うずくまる勇者。
「本来なら胴体が消し飛んでもおかしくないところを、肉体をとどめるのみならず、意識をも保ったことを褒めてやろう。しかし、その強さ……」
　獣のように己をにらむ勇者を見下ろし、亨は皮肉げに笑った。
「貴様も世から弾かれたか」
　人間たちは圧倒的な力を持つ魔の力を効率的にはねのけるべく、一握りの勇者に力を集めて魔王討伐を命じていた。結果として魔王に匹敵する力を持った勇者を、しかし人間社会は受け入れなかったのだ。
「戦うだけが、勝つことだけが、強くなることだけが己の全て。ここは、そういう連中の行き着く先だ。貴様に帰る場所がなくば、新たな家族に迎えよう」
　亨の差し出した手は硬く、大きく、そして強かった。
　勇者は彼の手を取り、立ち上がる。
　世界の命運をよそに捨て、ただ強さだけを磨き続ける岩窟の奥深くへと、彼はよろこんで落ちていった。

このページにイラストを設定する