難攻不落、ＤＩＹ魔王城！｜リアクション

難攻不落、ＤＩＹ魔王城！

■大いなるまなこ目覚めし時、大いなる災いが降りかからん（意味：よく眠ってる人を急に起こしてはいけません）
「まおーさまー！　まおおさまあああああ！」
　絨毯を駆け抜ける足音と、自らを呼ぶ声。
　天蓋付きのベッドがもごもごと動き、ゆっくりと白い手が伸びる。
「う、ううん……」
　顔を覗かせた青山絢は、どかんと開かれた部屋の扉に目を細めた。
　暗い部屋にさしこむ光と、逆光のシルエット。家臣の言葉を半分以上聞き流し、もう一度ベッドに潜り込もうとしたその時。
「――だから、魔王絶対殺す剣を持って勇者が来たんですってば」
「なんですって！？」
　絢は布団をはね飛ばした。

　長い絨毯の廊下をつかつかと歩く絢。壁際へ等間隔に並んだ甲冑モンスターたちが慌ててしゃきっと背筋を伸ばし、通り過ぎた所でそっと振り返っていく。
「なんで早く起こしてくれなかったのよ！」
「起こしましたけど」
「なんでゆっくり寝かせてくれなかったのよ！」
「寝かせませんよ！？」
　絢は頬をふくらませてぷんすかすると、腕を広げて見せた。家臣たちが魔王のマントを羽織らせる。
　タイトスカートとスーツのせいで、マント以外はほぼＯＬのようだが、こうみえて魔王城の主である。
　彼女の仕掛けた数々の罠はこれまで幾多の勇者たちを退けてきた。
　その証拠というわけではないが……。
「勇者のパーティを教えて」
　ぱっと手を伸ばすと、虚空からタッチペンが現われた。
　目の前に魔法のタブレットＰＣが羽根をはばたかせてホバリングし、勇者パーティの様子を映し出す。
　勇者と僧侶と格闘家。その三人が城の通路を突き進んでいるところである。さすがに魔王城までくるだけあって雑魚モンスターがモップに吸着するホコリのごとしだ。
「仕方ないわね。罠、発動！」
　タッチペンでぴっと鏡面をタッチすると、空中に『発動』の文字が浮かび上がった。

　うぃんうぃんと音が鳴る。通路を進んでいた勇者一行は、足下の床が後方へとベルトコンベア方式に流れていくことに気がついた。
「しまった！　みんな走るんだ！」
「任せろ！　運動は得意だ！」
「わたしは得意じゃありませーん！」
　うわーんと言いながら流されていく僧侶。
「「僧侶ぉー！」」
　流されていった僧侶は魔法の水晶にカプセルインされお城の壁からペッてはき出された。
　ベルトコンベアはまだ続く。体力自慢の勇者と格闘家はせっせと前に進んでいたが……。
「はっ！？」
　後方からじわじわと近づいてくるマッスルゴブリン。
　格闘家の血がうずく。
「このままでは追いつかれてしまう。勇者よ、ここは任せて先に行け！」
「格闘家ぁー！」
　ひゃっほうと言って敵に飛びかかっていく格闘家を涙ながらに振り切って、勇者はついに魔王の間へと転がり込んだ。ダッシュで。

「ふふふ、よくぞここまでたどり着いたわね！」
　ばっとマントを広げる絢。はためくマント。横で一生懸命風を起こす家臣。
「魔王絶対殺す剣は力を失ったが、俺には仲間たちが託してくれた絆がある！　覚悟しろ魔王！」
　ていやーといって飛びかかってくる勇者。
　絢はタッチペンで空中にバツ印を書くと剣にペンを押し当てた。
　空中に削除の文字が浮かび上がり、剣がぱきーんと砕け散る。
「あっ」
「うん」
　至近距離で冷や汗を流す勇者。
　絢は握り拳に息をはーってやってから、大きく振りかぶった。

　かくして、魔王城から格闘家と勇者がペッてされたそうな。

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