【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層】疾きこと風のごとく(2)

　ティクス・ソルは、仲間達の活躍もあって、大勢の人手を連れて、悠々と宝の在り処まで辿り着くことができていた。
「……お前達。全員、ついてきてるな？」
　ティクスが仲間達の安否を確認すると、そこにいた人手達が全員そろって頷く。
「よし」
　ティクスは一つ頷くと、視線を目の前の壁に戻し、その漆黒の瞳を意識を集中するように薄く鋭く細める。
（……スハイルの見取り図によるならば、このあたりが一番隠し部屋をつくるのに相応しいはず）
　それは盗賊団の首領としての経験とカン。
　さらには短刀にこめられた盗賊の力との相乗効果も発揮させて、ティクスはコンコンと壁伝いに壁を叩きながら隠し部屋の在り処を探っていく。
（……違う。違う。……ん？）
　と、そこでティクスは一か所だけ、明らかに音の響き方が異なる壁を見つける。
「……団長。もしかして……」
「ああ。おそらくこの向こう側に――」
　ティクスがぐっと壁を押す腕に力を込める。
　すると、
「おっ……？」
　壁が回転扉のように中に押し込まれて、ティクスはその奥にある隠し部屋にまんまと入り込むことに成功した。
「……よし、お前達。こっちだ。荷物を運び出してくれ」
　ティクスは中の安全を確認してから、人手達に合図を送り、お宝の運び出しを開始する。
（……さて、あとは依頼人の親の形見ってやつを見つけないとだが）
　イダス・スハイルらの活躍もあり、瞬く間にお宝がごっそりと持ちだされていく隠し部屋の中で、ティクスは今回もっとも重要視するべきお宝の在り処を探すことに集中する。
　程無くして、
「……ん？」
　ティクスは、ほかの雑多な装飾品に紛れて箱の中に放置された一つのペンダントに目をつける。
　ぱっと見からして、高価な宝石が使われているものではない。
　だというのに、その宝石はきちんと長い間手入れがなされている感じがし、にもかかわらずここではほかの装飾品と同様に適当な感じで放置されていた。
（……当たり、だな）
　ティクスはそのペンダントを手に取って確認すると、大事に懐にしまった。
　１２支団は盗賊ではあるが、ただの物盗りではない。
　自ら義賊を称することはそうそうないが、それなりの矜持を持って『仕事』をしている。
　だからこそ、今回、もっとも大事に扱うべきものも、ちゃんと心得ている。
「よう、ティクス」
　と、そのとき、陽動にあたっていたコル・ティグリスが手筈通りにティクスのもとに合流してくる。
「コルか。お前が来たということは、商人にオシオキは済んだわけだな？」
「ああ。まあ俺が本気を出すと大けがになりかねないからな。軽くおねんねしてもらう程度にしておいたぜ」
　まあ二三日、あざくらいは残るかもな、と笑うコルにティクスも鷹揚に微笑む。
「よし、こちらも仕事は済んだ。それじゃあ撤収するとしようか」
「ああ。おっと、こいつを忘れちゃいけねーな」
　コルが思い出したように隠し部屋の一番目立つところに、一枚のカードを置いていく。
　１２支のマークが描かれた一枚のカード。
　それは、盗賊団の仕事の証だ。
「それじゃあさっさとお暇しよう」
　ティクスがひとたび合図を鳴らせば、次の瞬間には、瞬く間に団員達が踵を返して後退を開始する。

「くっ……。待て、逃がすな……！　待て、待たないかっ……！」
「ああっ……！　ボス、お宝が、お宝がぁ……！？」
「な……なんだってぇ……！？」

　かくして、嵐のような襲撃が終わったときには、屋敷のお宝はあらかたティクスらの手勢によってしっかり持ちだされた後だったのであった。