【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一三階層(1)】

　星幽塔。第十三階層。宇宙空間に浮かぶ白亜の円形舞台。
　そこはファンタジーな塔の中でも、さらに輪をかけてファンタジーな場所だった。
「わあ……。やっぱり何度見ても綺麗だねぇ……」
　壬生由貴奈は、広大な宇宙空間にぽっかりと浮かぶ白亜の舞台の上で、感嘆の吐息を吐いた。
「こうして平和になった塔から見上げる空はまた格別だなー」
　その隣で、卯木衛も瞳の中に星の海を浮かべながら、声を弾ませた。
（なんかあのとき空に生えてた『塔』を見つけてから、ここまで来たのかと思うと感慨深いよなー）
　衛は、最初に『塔』と邂逅を果たしたときの記憶の糸を手繰り寄せつつ、ふぅっと深い息を吐く。
（しかし、なんか妙にドキドキするなー）
　と、衛は隣で空を見上げる由貴奈の横顔を見つめながら胸中で呟く。
　由貴奈は、衛にとって大好きで、大切な人だ。ずっと末永く一緒にいたいと思える大事な人だ。
　だから、この記念とも呼べる機会に、デートに誘った。彼女と一緒に守った星空を彼女と一緒に見上げたいと思ったからかもしれない。
　などと少し恥ずかしいことを考えていると視線に気づいた由貴奈と目が合った。
「ん～？　うーちゃん、ぼうっとした顔してどうしたのかな～？」
「えっ！？　あ、い、いやっ！　なんでもないですよっ！　あ、ほ、ほら、あの赤い星、アンタレスですよ！　キレーだなー！」
　かぁっと顔を赤くして、照れ隠しをするように衛は空に浮かぶ赤い星を指差して大げさに騒ぐ。
「……ふ～ん？」
　由貴奈は、そんな衛の内心のアレやコレを見透かしたように、しばらく意地悪く微笑んでいたが、やがて彼女も空に輝く赤い星に視線を移した。
「……ほんとに綺麗だねぇ。この世界の住人だったり、うちらが持つ力だったり、星にまつわるものが多いだけに星空もきれいなのかな」
「……そうかもしれないですね。あ、そうだ。この辺でご飯食べましょうよ！　俺、絨毯持って来たんです！　サンドイッチも！」
　衛も、由貴奈の言葉に同意しつつ、ここぞとばかりに用意していたアラビアンな絨毯と手製の弁当を広げる。
「お～。おべんとまで持ってきてくれたんだぁ。その絨毯も素敵だねぇ、ありがとねぇ～」
　いつもののんびりな感じの笑顔で微笑みつつ、由貴奈が広げた絨毯の上に腰かける。
「由貴奈さんほど上手じゃないですけど、食べてみてください！」
　と言いつつ衛が取り出してみせたのは、本当にシンプルなパンにドラゴンキャベツとソースを挟んだだけの代物だった。
「はい、あーん！」
　と衛がサンドイッチを差し出すと、由貴奈も少し驚いたような顔をしつつ、素直にあーんと口を開けてそのサンドイッチを食べてくれる。
「……ん、美味しいよぉ」
　と由貴奈が笑えば、
「ほ、本当ですか！」
　と衛が凄く嬉しそうな顔をする。実際、衛のサンドイッチは普通に美味しかった。そのうえ由貴奈はよもや衛が手料理を持ってきてくれるとは思っていなかったので、より一層美味しく感じられたものだった。
「ふふ。じゃあお返しにうちが作ってきた料理もどうぞ～。そんなに手は込んでないけれど、二人分のお弁当作ってきたからねぇ～。はい、あ～ん」
　由貴奈がお返しにあ～んとおかずを差し出せば、衛もあ～んと口を開けてそれを美味しく頂く。
　それから食事中、衛の頬は終始幸せそうに緩みっぱなしで、その緩みは食事中ずっと収まることがなかったという――。