【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第十二階層】

　恵御納久隆は、バーガンディを訪ねて１２階層にやってきていた。
　久隆は、先日、愛する妻のことで、ついつい感情的になってしまったことを謝罪すると同時に、何か手伝えることはないかと思っての訪問だった。
「バーガンディさん、先日はどうも」
「おお、おぬしはいつぞやの！　いやいや、元気そうで何よりぢゃ！」
　サソリではなく、小柄な老人の姿をしたバーガンディは久隆の訪問にしわくちゃの顔を破顔して見せた。
（……よかった。どうやらさほど気にしてはおられないようだ）
　そのことに、久隆は少しほっとした。
　何しろ妻や娘など家族のこととなると、つい熱くなってしまう自分の性格には久隆自身も気づいている。
　そのことが悪いこととは決して思わないが、多少度が過ぎているのであれば、改めようと自省する冷静さも久隆は持っていた。
「今日は鉄鉱石の採掘などを手伝わせてもらおうかと思ったのですが」
　と、先刻のお詫びと言う意味も含めて、久隆はバーガンディにそう申し出る。
「おお、そうかそうか。そいつは助かるのう」
　バーガンディは久隆の申し出に、嬉しそうに相好を崩す。
　こうして見ると、先刻のあれは何かの間違いで、基本的には気のいいおじいさんなのだろうと久隆は思う。
　思うのだが。
「……バーガンディさん。何をきょろきょろとしているのだろうか？」
　何やらそわそわと辺りを見まわすバーガンディの姿に、自然と久隆の眉間に皺が寄る。
「いや、この前のボインの嫁さんはどこかなー……って、わかった！　わかったから、服の下から筋肉を盛り上げるのをやめるのぢゃ！」
　バーガンディがわめいたことで、久隆はようやく自分がついカッとなって全身に力を入れてしまっていたことに気がついた。
「……妻は今日は来ていません。私一人です。何故、そんなガッカリとした表情をしておられるのですか？」
　できる限り冷静に、久隆はそうバーガンディに問いかける。
「い、いや、思っとらんよ？　隙あらばあのボインにダイブしようとか全く思っとらんよ？」
「…………」
　明らかに狼狽した様子のバーガンディに、やはりこの爺さんは油断がならないと久隆はその認識を新たにしたのだった。