【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第七階層(1)】

「わあ……」
　クラーラ・トロムリッツは、初めて目にした第七階層の光景に感嘆の吐息を漏らした。
「……凄い。第一階層とは全然違うのね……」
　きょろきょろと興味深げにあたりを見まわしながら、クラーラは双子の兄であるクレメル・トロムリッツにそう語りかける。
「ねぇ、クレメル。ここはどういう世界なの？　私、いつもお留守番か、クレメルについて歩くばかりだったから、ほかの階層のことは何も知らないの」
「うーん。そうだね」
　クレメルは、うーんと腕組みしつつ、できるだけわかりやすい言葉を選んで、この階層のことを説明し始める。
「ここはしし座のアステリズム――レオーネ・ナジュムが治める砂漠の国だ。文化も独特で、ここ特有のものが多いし、食べ物も中々美味しい。それから、階層を統治するレオーネが相当の手練れだから、治安もいい」
　かつては全てに対する情熱を失ってしまっていたというレオーネも、影から世界を救ったという冒険者達の手によって、再び情熱を取り戻し、この階層にもオーブに火が灯されたのだという。
（人という生き物はどこまでも愚かなものだけれど、その冒険者達とやらだけは少しだけ評価してあげてもいいかな……）
　クレメルが珍しくそんなことを思ったのは、きょろきょろとあたりを観察するクラーラの横顔がとても楽しそうだったからだ。
「ねぇ、クレメル。あのお店に入ってみたいわ」
「わかった」
　クレメルはクラーラの手を引いて、アラビアンな雑貨店の入口をくぐる。
　店内に陳列された第七階層ならではの商品を見て、クラーラはめずらしく年相応の少女のような瞳の輝きを見せた。
「……凄い。同じ塔の中なのに、サジタリオにあるものとは何もかもが違うのね」
　着ている衣服も違えば身につける装飾品も違う。衣服やアクセは軽量で、極彩色のものが多かったし、宝石類も赤や緋色などの情熱的な色が好まれる傾向があるようだ。
「……私もここの素材で何か作れるかしら？」
　クラーラが問えば、クレメルは少し驚いたような顔をすると同時に、
「もちろんできるさ。じゃあ、ここで何か材料を買って、帰ってから一緒に作ろうか。大丈夫、難しいところは、僕がやってあげるよ」
「うん。ありがとう。クレメル」
　こうして、トロムリッツ兄妹は仲良く第七階層の探索を済ませ、また第一階層に戻るのだった。