怪人セブンの正義｜リアクション

怪人セブンの正義

【16】

「ピッチ内は大丈夫、か。本当にそうだった？」
　逆巻は戻ってきた桜井に実情を聞き出した。
「俺が見る限りは、すっげーピリピリしてて動き出す様子はなかったけどな？」
「そっか。没はどう思う？」
　神出鬼は腕を組んで少し考えたあと、
「腕っ節の強そうなエレノアはテロリスト側に寝返ったようだし、オカマの人はまだ気絶していたのさ。だから戦えるような人はいなかったと思うよ」
「なるほど、これはもしかしたら罠かも」
　ダクトを一周して分かったが、武闘派な逃亡者は捕まらずにグループを作って対抗している傾向が高い。
　そうなると、今捕まっているのは戦闘手段を持ち得ていない人たちばかりだと推測される。
「でも、おおっぴらにねこったーを使用するのは危険だね。まぁ、直にやり取りするなら問題ないか」
　早速逆巻は、情報班へ個別に連絡。現在地を教えてもらい、八神と連携して「ねこったーに嘘情報が紛れてるかもしれないので、使用を控えて」と伝達する。
「そういえば、この近くに八神と霧生が避難しているようだけど。ダクトは結局天国だったわけだね」
　ダクトに逃げた逃亡者は終始捕まることなく、情報収集に徹することができた。
「あ、いたいた。八神、僕だよ、逆巻だ」
　トイレ付近のダクトまで逆巻が接近すると、小声で八神と霧生が彼に挨拶を交わす。
「無事だったか、逆巻」
「お前が逆巻か。情報面ではサンキュ。俺は２年の霧生。よろしくな」
「こちらこそ、情報の伝播やまとめ、感謝します。霧生先輩。さて、僕らはどうしよう？　南ゲートでの人質解放が罠かどうか、なんだけど」
　逆巻の懸念に、桜井はんー、と思案を巡らす。
「南ゲートからの解放は、ついさっき決定っってわけでもなさそうだったぜ？　俺は確定情報だと思うんだが」
「じゃあ、ピッチ内は大丈夫、ってところが怪しいかもな？　実際、中はどうなってるか、俺たちには確認できない」
　霧生も必死に思考を途切れさせないように努める。
「廊下のテロリストはだいぶ減ったんだろう？　なら、俺たちも降りないか？」
　八神の提案に、逆巻はしばし無言の長考。
「……そうだね。２人は降りるべきだろうね」
　その言い方は、自分は降りないと言っているのと同然だった。
「逆巻、なんだよ、一緒に脱出しようぜ」
　桜井の言葉に、逆巻は首を横に振る。
「まだ僕はやり残したことがある。僕は没と一緒だから、いつでも脱出できるしね。でも僕はそうしなかった。なぜなら、僕はみんなを助けたいんだ」
　逆巻の言いぶりは本気だった。
「人質が減れば、情報伝達できる人が減るし、幸いここは安全のようだ。僕はもう少しここに残って、全員の脱出を手助けしたい」
「そこまで言うなら……」
　霧生は小さく頷くと、逆巻に手を差し伸べる。
「無茶はすんなよ」
　これに八神と桜井もあわせる。
　神出鬼も差し出せば、逆巻も合わせる他なかった。
「そのセリフは僕のセリフですよ、先輩。下は敵味方ともども血の気の多い奴らでいっぱいですからね」
「ねこったーで暗号を出すのはやめておくか……」
　八神は縦読みで暗号文を考えていたが、相手に情報を読み取られているかも知れない今、安易に流すのは得策じゃない。

『不安かもだが、
　落ち着こう
　廊下にも奴等が居るから、
　しっかり
　手を貸すぞ
　！』

「こんなのを考えてたんだが」
「八神、それじゃダクトまで捜索対象になりかねない。やめたほうがいい」
　逆巻に釘を刺され、いよいよ諦めざるを得なくなった。
「それじゃ没、芽森先輩がいるって言ってた店の前まで転送よろしく」
「お安い御用さね！」
　そういうと、神出鬼は霧生と八神の手を取ると、ぱっと３人とも消していった。
「俺もピッチに戻る。稲場が心配だ」
　桜井は胸元にぶら下げるオルゴールの鍵を握り締めると、再びカナリア姿になった。
　換気口からそのまま彼は飛び出すと、目立たないよう注意しながら飛び去っていった。
　そこへ神出鬼が戻ってくる。
「天野、大変だよ！」
「どうした、没？」
　血相を変えた神出鬼が逆巻にしがみつく。
「南ゲートに、テロリストが結集してるよ！」