僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　６

　遥斗と樹は、花畑に横たわっていた。
「……すごい気持ちいい。ずっと寝ていたい……」
　足音に気付き、遥斗は起き上がった。
「どうだ？」
「いいね」
　リリーの質問に、簡潔に答える。
　柘榴との戦闘後、腹を空かせた遥斗は何か食べ物はないか尋ねた。そこでリリーは、この花畑に二人を連れてきた。
　最初、虫嫌いの樹は、花畑に寝転がることを拒否したが、疲れが取れること、虫はいないことを聞き、渋々、遥斗に倣った。
「これ、凄いですね」
　遥斗に続いて起き上がった樹は、リリーに話しかけた。
「空腹も、なくなったろう？」
「確かに」
　遥斗は自分の腹を撫でた。先程までの猛烈な空腹感はすっかり消えた。が、物足りなさは残る。
「この世界では、食事を取るという行為はないんだ。戦闘で疲れたり、エネルギーを使い果たしたときは、こうやって寝転がる。それで回復する」
「便利だな。……ちょっと、つまらないが」
　味覚音痴の遥斗ではあるが、食べることは大好きだ。「食べる」という行為そのものが、人には必要なのだと遥斗は思った。
　リリーは笑いながら、遥斗と樹の間に座った。
「私も、お前たちの世界で食事を覚えてしまったから、その気持ちは分かる」
　樹はぼんやりと、不思議だなあ、と考えていた。これほど美しい花畑に、虫の類が一切いないのは、おかしい。蝶すら見当たらない。この花が毒というのなら分かるが、それならこうしてエネルギー源になるのはおかしい。
　この世界は妙ね、と樹は思った。
「この世界はおかしいのだ」
と、リリーが樹と同じことを言った。「私も、お前たちの世界に行かねば分からなかったろう。生きていくのに何の問題もない。――琥珀たちさえいなければ」
　だが、と続ける。
「お前たちの世界に行った後では、この世界には足りないものがあると分かる。それが何かは分からない……いや、足りないものばかりなのかもしれない」
「そもそも、なぜ争っているんだ？　なぜ奴らは、植物を燃やしたり破壊しようとする？」
「あいつらが襲ってくるからだ。最初は、こちらも迎え入れようとした。だがあいつらはどうも、植物があると居心地が悪いらしい」
「どういう意味ですか？」
「何と言ったらよいか……私たちはこの綺麗な空気を美味しいと思う」
「それは確かに」
　樹は頷いた。その感覚は、彼女にも遥斗にも分かる。
「だがあいつらにとっては、苦痛らしい。あいつらが好むのは、汚れた空気や無機質な物……」
「それじゃ、この世界とは全く相容れないんじゃないか？」
と遥斗。
「そうだ。だからあいつらは、この世界を自分たちの好みに作り変えようとしているんじゃないかと思う」
　遥斗は愕然とした。
　リリーの考えが当たっているとすれば、この世界にいる限り、琥珀たちは破壊をやめないだろう。
　この戦いを止めるには、どちらかが滅ぶしかないというのだろうか？