僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　７

「たっくんは見つかった！？」
「あーまあ大将、もちっと待ちなって。隠れる場所なんてないんだから、その内、見つかるって」
　ぷんすか怒る光とそれを宥める柘榴を見ながら、ロベルトはその部屋を観察した。
　牢とは違うが、つるりとした材質で作られた無機質な部屋だ。椅子らしきものはあるが、テーブルはない。これはロベルトの部屋も同様で、違うのはベッドがあることだけだった。
　ここは、彼らのいわば作戦室だった。
「あ、そうだ。これ食べる？」
　ロベルトはポケットに入っていた飴玉を取り出した。翡翠たちはともかく、「食事」の楽しさを知るこの二人なら喜ぶかもしれない。
　案の定、光は目を輝かせてそれを取り、口に放り込んだ。ころころと舐めながら、それでも怒ることをやめない。
「琥珀くんは、何をそんなに怒ってるの？」
　どうにも光は、巧の身を案じているようには思えない。
「たっくんがどっか行っちゃったでしょ！」
「……つまり、巧くんが近くにいないから嫌――とか？」
「だってたっくんは、俺の傍にいないといけないし！」
　どうやら光は、巧に懐いている状態から更に進んで、彼を独占したいらしかった。
「それ、翡翠に言うなよー。嫉妬するから」
「そんなこと知らない！」
　光、巧、翡翠の三角関係を想像して、ロベルトは思わず笑いそうになった。
　が、これはゲームでもマンガでもない。
　先程の戦い方を見ていれば、彼らが破壊行為を楽しんでいることは確かだ。その上、相手を嬲る。
　客観的に見ればどう考えても悪役なのだが、普段の彼らを見ていると、――揃ってハンサムであることを除いても――どうにも憎めなかった。
　ロベルトはひょいと立ち上がった。
「部屋に戻っていい？　あ、大丈夫、一人で行けるから」
「あちこち行くなよー。翡翠に怒られるからな」
　柘榴を案内係に、建物内をあちこち覗いて怒られたばかりなのだ。
「分かってるよ。真っ直ぐ帰ります」
　ロベルトは人懐こい笑みを浮かべて、その部屋を辞した。
　そして宣言通り、真っ直ぐ、自分の部屋に戻った。これはゆっくり寝たいから、と頼み込んで用意してもらったものだ。
「ただいまー」
　誰もいない部屋に、声をかける。――と、美咲紀と修が顔を出した。逃げ出した二人は隠れ場所に困り、ロベルトに匿ってもらったのだ。
「どうでした！？」
「はい、これ」
　ロベルトは美咲紀に小さな紙を手渡した。自分の荷物から返してもらった生徒手帳の一ページだ。そこに細かく、見取り図のようなものが描かれている。
「そこが保管庫。みんなの分もあるはず。見張りはないけど、開けるには翡翠がいないといけない」
「牢と同じなんですね」
「食料庫みたいのは……」
「ないね。瑪瑙が言ってたろ？　エネルギーがなくなったら花を使う。僕もやってみたけど、確かに元気にはなるし、空腹も何とかなるっぽい。食べる、と表現していいか分からないけど」
「残念です」
　美咲紀はしゅんとなった。花好きの彼女にとって、花を食糧にすることはなるべく避けたい。
「建物内に見張りはいない。武器もない。どうやら彼ら、腕を振るなり直接触れるなりで力を使うらしい。人数が少ないから隙を見て動けばどうにかなるけど、見つかったらヤバイかも」
「ご心配ありがとうございます」
「僕はもう少し、柘榴にくっついてるから。本当に気を付けて。藍玉もどうなったか分からないしね」
　見張りもいないこの建物内で藍玉一人が行方不明になった。
　もはや考えられるのは三つ。
　逃げ出したか、どこかに囚われているか、――もう生きていないか。

このページにイラストを設定する