僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　８

「はあっ、はあっ、はあっ……」
　足が思うように進まない。
　口からは空気が出て行き、入ってこない。
　心臓が破裂しそうだ。
　遂に自分の脚に引っかかって、巧は真正面から転んだ。顔面が土で真っ黒になる。
「大丈夫？」
　すぐ横を走っていた莉鳥が立ち止まった。彼女の息も上がっている。
「うーもう、何でこんなことに……」
　巧は半分、べそをかいている。
「少し、休む？」
と武道も引き返してきた。
「いや、もっと離れた方がいいんじゃないか」
と、これは亮だ。
「見ろ。花畑が滅茶苦茶だ。やったのは、あいつらだろうから……」
「この辺は行動範囲、ってことか」
「……ねえ、やっぱり戻らない？」
「危険よ」
　真っ先に反対したのは、莉鳥だ。
「逃げ出したことで敵対行動を取ったも同然なんだから、翡翠に私たちをどうにかする名目を与えたことになるかもしれないわ」
「そんなあ……」
　頭を抱えた巧の手を見て、あれ、と莉鳥は呟いた。
「な、何？」
　左の手首――雲母に掴まれたそこが、どす黒い色に変わっている。
「わっ、何だこれっ？」
　巧は慌てて手首を擦るが、色は落ちない。
「これは――雲母の仕業？」
「え？　え？　何これ？」
「痛みは？　違和感は？」
「そういえば……ここだけ、感覚がない……」
　巧は手首を抓った。が、何の感触もない。
「何これ！？　どうなってんの！？」
　ごしごし。ごしごしごし。
　巧は涙目になりながら手首を擦り続けた。
「握ったところの感覚をなくす能力？　いや、それだけのはずないか？」
　武道は一人呟く。光を始め、彼らの能力は皆、「破壊」に繋がっている。となれば、雲母のこれも、その一つであるはずだ。
　可能性の一つに気付き、武道はぞっとした。
　風が吹いた。その音がぐんぐん近づいてくる。と、それが止んだとき、銀髪を棚引かせた翡翠が空中に静止していた。
「見つけたぞ」
　腹立たしげに翡翠は言う。
「琥珀様の願いだからな。そこの小僧は連れて帰るが、他の奴らは死んでもらおう」
　翡翠が腕を振り下ろす。
「危ない！」
　莉鳥は巧を突き飛ばした。氷の刃が彼女を襲い、脚を切り裂いた。同時に振り返りながら、莉鳥は指先から電気を放出した。が、翡翠はそれを躱し、続けて武道に刃を降らせた。
　無言の亮が、それを拳で砕く。
　だが、それ以上の攻撃が出来ない。
　対等な立場なら、負ける気はしない。だが、相手が宙に浮かんでいては、亮にはどうしようもない。
　飛ぶか。だが空中で態勢を変えることは困難だ。逆に不利になりかねない。
　何か投げつけるか。辺りには土しかない。
　その時だ。
　空が紫色に変わり、妙な形に捻じれると何かが落ちてきた。
　その何かは、あっという間もなく、翡翠に激突した。衝撃で翡翠は地面に叩き付けられ、それも転げ落ちた。
「ぬおおお～！！　頭が割れるぅぅぅぅ！！」
　悲鳴を上げて七転八倒するその人物を見て、莉鳥は呆気に取られた。雅樹だった。
「し、椎井！？」
　雅樹の方も気づいたようで、頭を自分の押さえながら立ち上がろうとし、そのままぺたんと座り込んだ。
「だ、大丈夫？」
　さすがの莉鳥も声に不安が混じる。
「大丈夫じゃない……痛い……」
「あー、頭と頭がゴッチンコしちゃったんだな」
　気絶しているらしい翡翠を見下ろし、武道が言った。
「……石頭だな」
　亮は呆れたように呟く。
　同じようにぶつかって、片方だけダメージが大きいというのは、雅樹の頭が翡翠のそれより硬いということだろう。
「知るか。当たりどころが悪かったんだろ」
「まあ、ともかく助かった」
「……助かった？　何してたんだ？」
　どこから説明したものか、莉鳥は考え込んだ。
　いや、それより何より、今、どうするべきだろうか？

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