僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　９

　ロベルトから貰った見取り図を頼りに、修と美咲紀は保管庫へ向かった。
　彼が言うように、保管庫は牢にそっくりなガラスのような壁だ。一つ違うのは、入り口すらないことだ。
「これ、どうやって開けるんだ？」
「一々、翡翠が開けるんですかね？」
　ドアを探しながら二人は首を傾げたが、ないならないで、修にはどうとでもなる。
　再び【分解】で壁を壊し、修と美咲紀は悠々と中に入ると、没収された道具を全て回収した。自分たち以外の物もだ。
「さあ、脱出しましょ。これ以上、ここにいる理由がありませんから」
「そうだな」
　幸いにして、翡翠はつい先程、飛び出していった。――巧たちを追っていったのだろうが、ここにいないのは、正直助かる。
　見取り図を辿り、柘榴、瑪瑙、雲母に見つからないよう、二人はこっそりと出口へ進んだ。
「……と思う？」
　話し声が聞こえてきて、二人は足を止めた。瑪瑙の声だ。見つからぬよう曲がり角に隠れて、耳を澄ます。こちらに来るようなら、保管庫に戻らねばならないだろう。
「ああは言ったけど、あいつらが藍玉を殺したとは思えないんだよなー」
　どうやら、行方不明になった藍玉について話しているようだ。
「まあ、牢からは出ちゃったから出られないし、って理由はなくなったけど、いなけりゃいないで、すぐ分かるじゃん？　考えてみたら、琥珀様がしょっちゅう見に行ってたし」
　そういえば光は中にいる間、一時間おきには巧に会いに来ていたな、と修は思った。
「大体、藍玉を殺せるほど、強いとは思えないし」
　これには些かむっとしたが、二人のろっこんは確かに戦闘向きではない。瑪瑙の言うことも、もっともだ。
「それに、あいつらにあっさりやられるほど、藍玉も間抜けじゃないだろうし。……ああ、もちろん生きてる可能性もあるけど、一人で逃げるわけないし、捕まってるなら――あいつを殺さずに拘束できる奴なんて、琥珀様ぐらいだろ？」
　瑪瑙はそこまで喋って、息を吐く。
「だからさ、あいつらが言うように他の奴がやったと思うんだ。お前、どう思う？」
　瑪瑙は、武道の意見に耳を傾ける素直さを持っているようだった。
「ヴァルキリーの仲間が入り込んでるとか、いやでも、あいつらだって藍玉をどうこう出来るわけがないし……」
　瑪瑙の悲劇は、武道の意見「全て」を受け入れたわけではない、ということだった。
「……？」
　急に無言になり、修と美咲紀は何があったのかと顔を見合わせた。
「うわっ……」
　瑪瑙の悲鳴が上がった。
「何だよ、何だこれ……何でこんなこと……！」
　ただ事ではない。見つかる恐れもあったが、二人は思い切って覗くことにした。とはいえ、顔を出すのは危険だ。携帯電話だけを突き出し、録画機能を使う。
　瑪瑙の体は、どす黒く変色していた。その部分が指先や肩、下半身、頭へと広がっていく。まるで生きているかのようだ。
「やめ……」
　瑪瑙は目を白黒させながら倒れた。その時にはもう、声は出なくなっていた。
　やがて黒い部分が全身へと広がった後、瑪瑙の体は砂のようになって消え去った。
　最後に残った小さな玉を、その相手――雲母は拾うと、ごくりと一飲みにしたのだった。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：泉楽
ファンレターはマスターページから！

お待たせしました。「僕らの異世界戦争」リアクションをお届けします。

琥珀陣営にいる人々は、ついに脱走しました。
それぞれ思うように行動していると思いますが、その過程で巧が妙なことになってしまいました。
また、今度は別の犠牲者が……！！

争いに決着をつけ、連続する事件の犯人をどうにかし、巧を助ける。やることはたくさんあります。そして光は……？
（次回かその次に完結予定です）

※10月3日追記　リアクション９ページの内容に誤りがありましたので、修正いたしました。

↑ページトップに戻る