僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　５

　修と美咲紀を残して、巧たちは脱出を試みた。
　が、すぐに察した瑪瑙が追ってくる。彼は、牢の壁を壊したことに驚いているようだった。
「先に行って！」
　人が二人通れるほどの廊下で、莉鳥が振り返りざま、指先を瑪瑙へと向けた。目を閉じると同時に、瑪瑙が腕を振り下ろす。迸る電撃が二人の中央でぶつかり合い、威力に負けて莉鳥は尻餅をついた。
「ッつ……！」
「あんたも同じ力を使うのかあ。でも、弱っちいね！」
　瑪瑙はくすりと笑い、近付いてくる。莉鳥は体が痺れて動けない。
「掴まれ！」
　武道が腕を伸ばし、莉鳥はそれをしっかり両手で掴んだ。ぐいと引き寄せ、武道は莉鳥を抱えるよう走る。
「走れ！　走れ！」
　だがその前に雲母（きらら）が現れる。
「うわっ！」
　雲母は巧の手首を掴んだ。その部分が一瞬にして黒く変色する。と同時に、【缶詰】が発動して、巧の体は固まった。雲母は怪訝そうに眉を寄せる。
「一か八か！」
　亮は【鬼人の体（サード・フォース）】を発動した。建物の壁が牢と同じであれば、どうにもならないだろう。だが、もし違うなら――。
　廊下の壁が砕け、雲母の視界を塞ぐ。その隙に武道は、空いた方の脇に硬直したままの巧を抱えた。
「急げ！」
　こうして、巧たちは建物の外へ脱出したのだった。

　リリーたちヴァルキリーと光たちとの戦いは続いていた。
　ロベルトの見たところ、純粋な戦闘力という点に於いては圧倒的に光たちが上回っている。だがそれ故、彼らは戦いを楽しんでいる節があった。冷静に見える翡翠ですらもだ。
　付け入る隙があるとすれば、そこだろうとロベルトは考えた。
「そろそろ、疲れたんじゃねーの？」
　柘榴がにやにやと笑う。遥斗は竹刀を構えながら、肩で息をしていた。
「諦めてさー、燃えちゃえば？」
「……そうは、いかない」
「そっかー」
　柘榴はちらりと光たちに目をやった。あちらはあちらで、手こずっているようにも見える。
　実際は、九歳の体と力に慣れない光が、加減を調整しているらしかった。
「じゃあ、もう少し遊ぶか？　時間あるみたいだしな」
　遥斗は唇を噛んだ。強がりを言ったが、実際のところ、遥斗の体力は限界だった。後何回、竹刀を振れるだろうか？
　その時だ。
　瑪瑙が風を切って飛んできた。――文字通り、飛んできたのである。
「大変！　牢の奴らが逃げちゃった！」
　それを聞いて真っ青になったのは、光だ。
「たっくんは！？　殺してないよね！？」
「殺してないよ！　でも、逃げちゃったんだ！」
「――見つけなきゃ。たっくんを探して！」
「琥珀様」
　翡翠が落ち着かせようと声をかけるが、光の顔色は青から赤に変わった。
「探して！」
　光が怒鳴ると同時に、彼の周囲が破裂した。翡翠と瑪瑙が吹き飛ばされ、地面が抉れる。
　そして空の色が変わった。
「何だ、あれは？」
　リリーが眉を寄せた。
「あれは……お前が消えたときと同じだぞ！」
　シスルの顔色が変わる。何かが起こるに違いない。彼女はリリーやアイリスが消えたときのことを思い出し、不安になった。
　紫色に変わった空が捻じれ、その中心が光った。そしてそこから、何かが落ちてきた。
　遥斗は咄嗟に、それを受け止めた。両腕にずしんという衝撃が響く。
「アイタタタ……」
　樹だった。
「――玉か。まだ、力があるらしいな」
　翡翠が呟く。「琥珀様、いったん、引きましょう。あれに巻き込まれても面倒ですし」
「もちろん帰るよ！　たっくん探すんだから！！」
　光は、リリーたちのことも樹のことも振り返らず、一目散に飛んでいった。
　柘榴はやれやれと嘆息し、「またな」と遥斗に声をかけるとロベルトを抱きかかえてその後を追った。