僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　３

　巧たちは一人ずつ、四方をガラスのような壁に囲まれていた。
　互いの姿を見ることは出来るが、部屋を行き来することは不可能だ。
「何とかして出ることは出来ないかしら……」
　椎井莉鳥は壁の表面を撫でた。どこからどう見てもガラスではあるが、ちょっとやそっとの衝撃では壊れそうにない。
「うん……無理」
　床に転がった志波武道が応えた。息が切れ、手にベルトが握られている。
　というのも武道は、ベルトのバックルを叩き付けて壁を壊そうと試みたからだ。何度やっても駄目で、最後にはやけくそで体当たりをしてみたが、敢え無く撃沈したのだった。
　大きな怪我はないが、跳ね返ったバックルで鼻をしこたま打ち付けていた。
「ガラスというか、強化ガラス……？」
「でもガラスには違いないわ。ガラスは絶縁体だから、普通に電流を流しただけでは破壊できないけれど、一定以上の電圧をかけることで、『絶縁破壊』と呼ばれる現象が生じるはず」
「なるほど」
　武道はがばりと起き上がった。ズボンにベルトを通しながら、
「うまくいけば、ガラスにひび割れが生じて壊れるはず……か。やってみよう」
　莉鳥は頷き、壁から少し離れると指先に気を集中させた。迸る電気に、巧は「わあっ」と悲鳴を上げる。
　終わってから壁に触れるが、特にどうともなっていない。莉鳥はかぶりを振った。
「……駄目ね。弱いのかもしれない」
「そっかー」
　武道は、殊更わざとらしく肩を落として見せた。皮肉でも嫌味でもなく、その様子が滑稽だったので、莉鳥は然程、落ち込まずにすんだ。
「今度は俺だ」
　新田亮は壁の前で大きく息を吸い、止めた。頭の中で「発動」とはっきり呟いた。更に「倍化」と続ける。そしておもむろに、壁を拳で殴った。
　ガキン、とまるで鋼鉄を殴ったような音が響く。
　二発目。ガキン！
　三発目。ガキィン！！
　亮は大きく息を吐いた。
「……駄目だ。どんだけ硬いんだ、これ？」
「そりゃ無理だって」
　笑いながら、栗毛の少年が現れた。瑪瑙（めのう）だ。
「この壁は特別性。滅茶苦茶硬くて、ダイヤ並みだからね。壊せるのは琥珀様ぐらいじゃないかな？　開けるのも、翡翠がいいよって言わなきゃ、開かないようになってる」
「翡翠が作ったってことか？」
　武道が尋ねる。
「そう。あいつの能力でね。だからって溶かせると思わないでよ。柘榴にだって無理なんだから」
　柘榴の能力は炎。それで溶かせない――となれば、翡翠のそれは「氷」なのだろうと武道は考えた。つまりこの壁も、ガラスではない。その割に冷たくないし、相当な強度であることを考えると、普通の氷でないことも確かだ。
「まあ、大人しくしてればその内、出られるんじゃない？――あんたたちが藍玉（らんぎょく）を殺したんじゃなければ」
　武道は激高した。
「当たり前だろ！　そんな力あってたまるか！！　そもそも俺たちはこの中にずっといたんだぞ！　もしなんかあったなら、君たちの仲間の中に裏切り者がいたとしか考えられないじゃないか！？」
「裏切り者？」
　すうっと瑪瑙の目が細くなる。
「僕らは僕らの使命に従って生きてるんだ。あんたたちと一緒にしないでくれよ」
「使命？　この世界を壊すことが？」
「そうだよ。それが僕らが生まれた理由だからね」
　自分たちは、この世界を壊すために存在していると瑪瑙は言った。今また、それが使命であると。
　彼らは一体、何者なんだろうと武道は思った。

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