僕らの異世界戦争｜リアクション

僕らの異世界戦争

　　　２

　南の草原が燃える。火の海がどんどん覆い尽していく。
　北の草原は凍り付く。緑が色を失い、砕けていく。
　西と東の草原は大地ごと抉れていく。
　小さな声がぴーきゃーと聞こえてきて、ロベルト・エメリヤノフは耳を塞いだ。
　逃げ回っているのは、コロボックルと呼ばれる小人たちだ。彼ら――男女の区別はないらしいが、そう表現する――が草原で作業しているところへ、柘榴（ざくろ）、翡翠（ひすい）、そして光（ひかる）と共にロベルトはやってきた。
　何をするかと思えば、彼らは突然、攻撃を始めたのだ。何の予告もなしに。
　柘榴は笑いながら、翡翠は無表情に淡々と破壊の限りを尽くしていく。光もまた、どこか楽しげに見える。
　残酷だと思いつつ、彼らの横顔が言いようもなく美しく、ロベルトは僅かな間ではあるが見惚れた。
　その時だ。
　雄たけびを上げて、女性たちが現れた。先頭はリリーとシスル――ロベルトには分からなかったが――で、全員、水着のような鎧を着ている。その傍らに優木遥斗を見つけ、ロベルトはぎょっとなった。
「な、何で？」
　咄嗟に岩陰に隠れる。
　遥斗の行方は、一緒にこの世界へ飛んできた仲間と共に案じていたのだが、今の様子を見ると、どうやらリリーの陣営へ飛ばされたらしかった。
　自由がある分、こちらよりはましかもしれない、とロベルトは思った。何しろ、幸いにして彼は出られたが、東門巧を始めとした他の仲間は、未だに牢の中なのだ。
「おお？　お前、見覚えがあるな～」
　遥斗は前に、柘榴と一緒にラーメンを食べている。顔見知りなのだ。
「戦いは本意ではない、が」
　遥斗はちらりと周囲に目をやった。草木は燃え、土が剝き出しになり、その土も黒く変色している。無残である。
「……これ以上続けるなら、相手になるぞ」
「おもしれー。やれるもんなら、やってみな！」
　柘榴が腕を振り下ろした。炎が遥斗に襲い掛かる。
　遥斗は持っていた竹刀を、力いっぱい振った。強風が巻き起こり、柘榴の炎は進路を変えた。
「お？　おおお？」
　柘榴は楽しげに両目を瞬かせた。
　リリーとシスルは、光の前に立ちはだかった。
「今度こそ決着をつけてやるぞ、琥珀（こはく）！」
　レイピアを幼子に突きつける様子は、逆に悪人に見えた。
　翡翠が素早く、光の傍に駆け付ける。その隙にコロボックルたちが逃げ出した。一人、ロベルトの前で盛大にコケたコロボックルがいた。彼はロベルトを恐怖の目で見つめた。
　ロベルトは唇に人差し指を当て、逆の手で逃げるように指示した。コロボックルは転げるように逃げていく。
　リリーが斬りかかろうとするが、翡翠の氷で阻まれる。それを乗り越えようとしたシスルに向け、光は腕を振り上げた。氷の壁ごとシスルが吹き飛ぶ。
「少々、優しすぎはしませんか？」
　些か不満そうに翡翠は言った。
「そう？」
　光は自分の掌を見つめた。「まだちょっと、調子が出ないみたい」
「左様で……では調子が出るまで、思う存分、暴れまくりましょう」
「……うん」
　光は、少々気の乗らないように頷いた。

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