かくて世界は普遍する｜リアクション

かくて世界は普遍する

　「おーほっほっほっ、私は謎のヒロイン『クノイチ・ガール』！　この寝子島にレジェンドを刻みに参りましたわ！」
　円柱型の巨大な水槽を階層式に見ることができる区画の最上段に仁王立ちするレイラこと『クノイチ・ガール』。ミニスカートから赤い何かがちらちらしている。下層からモロ見えである。
　ある意味痴女とも言えるレイラの登場にざわつく館内。
　たまたま来ていた取材班以外の寝子島高校の生徒が声を上げる。
　「あれ、レイラじゃね、日本かぶれだし。パンツ拝んでおこう。ご利益ご利益」
　パンパンと柏手まで聞こえてくる。
　「レイラちゃんだよねー。なんで覆面しないでコスプレしてるんだろ。逆に目立つよね」
　なんてツッコミすら聞こえてくる。
　「レイラさん、なんて痛々しい…」

　「ノーノー！　私はレイラ・トンプソンというフツウの女子コーセーではないのです！」
　あわてて両手を前に出して否定を意味するジェスチャーをするレイラ。何にせよモロバレであった。
　館内の空気がレイラの登場をスルーしようとする方向になりそうになる直前に彼女は叫び、そして動いた。
　「モンドー・ムヨー！　キリステ・ソーリー！　トォ！」
　と、華麗に最上段からレイラは飛び降りる。
　数メートルの高さから飛び降りたにもかかわらず、空中で一回転して猫のように綺麗な着地を決める。
　スタントマン顔負けのその立ち回りに驚きの声がちらほらと上がる。
　「強そうなのはユーなのね！」
　レイラが勝手に指差した先にいたのはムキムキのレスラー風マッチョマンであった。彼女は相手の反応など気にせずに飛びかかる。
　「ファーストアタックが肝心ね！　センテ・ヒッショー！」
　「うおおおお！？」
　レイラは体全体を鞭のようにしならせるかのように大きく捻ってからのパンツモロ見えのハイキックをマッチョマンに浴びせる。マッチョマンはかろうじて踏みとどまり、彼女を捕まえようとするが軽業師のように身軽に宙返りをするレイラを捕まえられない。マッチョマンが追い、レイラが鮮やかに翻弄していくやり取りが数度続いた後。
　「せぇぇぇい！　クノイチ・キーック！」
　距離を取ったレイラは決め技のように３度バク転を繰り返してから、高く舞い上がってからのジャンプキック。

　ベキィ。

　そんな鈍い音が聞こえ。
　「ぐおおおおお！」
　と、断末魔のようなうめき声を上げてマッチョマンは倒れ伏した。レイラはＶサインを右手で作り、左手を腰に当てて勝利の決めポーズを作る。
　「『勝利の赤いパンツ』のレジェンドはここにあり！　『クノイチガール』は強きものを倒しますわ！」
　そう宣言したレイラに向けて少しばかりの拍手が湧いて。
　それに応えるようにレイラは館内をクルリと見渡してから次の獲物を見定める。そして止まった視線の先には……。

　「ネクストは貴女ね！　貴女からはデンジャラスな気配がします！」

　指差した先にいるのは治だった。線の細いその姿からはどこからも驚異を感じ取れないような気がするのだが、レイラは何かを感じ取ったらしい。
　「え、私……？」
　硬直する治に対して、躊躇なくものすごい勢いで迫り来るレイラ。
　「モンドー・ムヨー！」
　そう叫んだレイラは飛びかかろうとして。

　ズルッ。
　何かに滑る音。どうやら、床が水に濡れていた箇所があったらしい。

　ベシャッ。
　誰かがひっくり返ってしたたかに体を打ち付ける音。

　「ぐぇっ」　
　と、レイラがうめく声。床に腰を打ち付けてしまったようだ。

　「……大丈夫ですか？」
　思わず治は襲われかけたにも関わらず、レイラを助け起こしてしまうのだった。